今日は珍しい日だ。偶々、本当に偶然、お互いの休みが合った。
大人の男二人が寝るには狭すぎるベッドの中でふと目を覚ますと、隣にはいつもの温もり。このまま微睡ろむのもいいかと思うが、夜勤で疲れて昨日の、というより今日の朝方近くに帰ってきただろうコイツの為に朝食でも用意してやりたい。俺が出来るのはそれ位の事だ。
ぐっすりと熟睡している様子の野分を起こさないように、そっとベッドを抜け出そうとする。
「…ぁ……。」
ふいに伸びてきた腕に、またベッドへと引き戻された。驚いて、小さな声を漏らしてしまった。起こしてしまったのだろうか、そう思い、そっと向きを変えて顔を覗き込むと、未だ穏やかな寝息を立てている、ように見える。
(どうしよう…)
心の中で思うが、野分の腕はしっかりと俺を掴まえていて、これではこっそり抜け出すは至難の業だ。俺は起きるのを諦めて、野分の胸にそっと顔を埋めるようにして大人しくしている事にした。
どこまでも落ち着く温かさと慣れた匂い。ああ、こんなに近くにいる。
「野分…。」
決して起こす為ではなく、この腕の持ち主を確認するように小さく、声に出して名前を呼ぶ。
それだけで胸が熱くなる、特別な名前。
寝惚けたふりをして更に深く、鼻先を押し付けるように胸へと顔を埋める。
「はい。」
ふいに頭上から掠れた返事が聞こえたかと思ったら、ぎゅっと抱き締められた。
「てめっ…起きてたのかっ。」
思わぬ呟きを聞かれてしまった事が恥ずかしくて、ジタバタともがくが力強い腕は解ける事は無い。ちくしょう。図体ばっかりデカくなりやがって。
「おはようございます、ヒロさん。」
つむじ辺りに顔を寄せているのであろう、優しい、声。
「もう少し、こうしててもいいですか?」
「放せよ、おいっ!折角の休みを無駄にする気か。」
強めの声で反論してみたが返ってきたのはにべも無い言葉。
「休みの日だからこうしていたいんです。」
ああ言えばこう言うやつに育ってしまったコイツが憎らしい。
しかも、ちょっと待て…俺の下腹辺りに感じるコレは…いや、朝だからか、と自分で納得させようとする。それでも顔は赤くなっているだろう、顔が熱い。
身体を捩って、何とか距離を作ろうと試みるが、野分は更に俺を強く抱き締めてくる。
「野分、放せって…。」
抗う声は羞恥で微かに震えてしまう。
「いやです。」
そう言われたかと思ったら、目の前に野分の顔。起き抜けだというのに爽やかな笑顔でキス、された。しかもかなり濃厚な…。
朝っぱらからヤル気満々なのか!
「…バカのわ…き……ぅ……」
「ヒロさん…」
何とか野分の肩を押しやり、口付けから逃れた。吐息が熱い。
「……野分……ハラ減った…。」
悔し紛れに言った一言がコレ。何とも情けないとは思いながらも、咄嗟に出てきたのはこんな言葉でしかなかった。
「掃除も、しないと駄目だ。」
(だからこんな事してる場合じゃねえんだよ。)
そんな気持ちを込めつつ、野分の胸の辺りに視線を漂わせて言う。
「はい、任せて下さい。俺、ご飯の用意してきますね。」
俺のうなじにキス一つ落として、ベッドから身を起こし、ドアへと向かう野分の背中を目で追う。
結局ベッドに残されたのは俺で。
急に無くなった温もりを寂しく感じてしまう、なんて事もあるような無いような。
しばらくしてキッチンへ向かえば、いい匂いが鼻を掠める。
「ヒロさん、もう出来ますから座ってて下さい。」
いかにも嬉しそうに食事の支度をする野分。たいがい、コイツもバカだ。何がそんなに嬉しいんだか。
それとも野分は気付いたのだろうか。
俺が敢えて口にしなかった事に。
「ご飯食べたら、掃除しちゃいましょうね。今日、どこか行きたい所ありますか?」
「…いや、いい……洗濯も、しなくちゃいけねえし。」
モゴモゴと返事をする。
その、だってよ、シーツ汚れるじゃん…。
ふいに野分の大きな手が俺の頭を撫でる。
「洗濯はヒロさんを頂いてから俺が責任を持ってやりますから。」
「ふざけんなっ!誰がヤっていいって言った!!」
慌てて顔を起こすと満面の笑顔。
「だっていつもなら真っ先に『休みの日は洗濯だ』って言うのに。」
しっかり見抜かれている。恐るべし草間野分の学習能力。
「うるせぇっ!!!」
「ヒロさんは可愛いです。」
結局の所、これで俺は流されるんだ。
(バカのわき…)
純エゴ初作品です。エゴイスト組が私の一番のお気に入りカップルなんです。
やっぱりツンデレヒロさんに萌えざるを得ないです、はい。
山よりも高いプライドと負けず嫌いな所が特に可愛い!そしてワンコな野分に
ベタ惚れな所もいい!
(back ground:『NEO HIMEISM』様)