眼鏡




 あのデカい犬がいない間にちゃっちゃと掃除しちまわないと。晃司は今、下のスタジオで作業をしている。葦也さんも来てたし、新しい曲の打ち合わせでもしてるんだろう。アイツがいると掃除の邪魔になるから。
まずは風呂、トイレ、それから台所。ここぞとばかりに片っ端から片付けていく。さて、最後は寝室だ。ほんとはこの家に移る時に俺の寝室もあったはずなのに、晃司が勝手に寝室を一つにしやがって、おまけにこんなばかデカいベットまで買って…。ベッドメイキングだって大変なんだぞ、このサイズ。シーツも換えて、やっと掃除が終わった。何だかんだとかなりな時間が掛かった気がする。さすがの俺も疲れたよ、二人しかいないのに無駄に広いし。

 「ふぅ…」
 思わず俺は綺麗に整えたばかりのベッドに腰を下ろした。ふと視線をずらすと、ベッドの脇のナイトテーブルの上にある晃司の眼鏡が目に入った。
「アイツ、偶に眼鏡してるけど、そんな目悪いのかな?でも普段してねえし。あ、そういや前に言ってたっけ、空手だかの試合で左だけ悪くしたって。」
 細いシルバーメタルフレームの癖の無い眼鏡。あんなスケベの女ったらしでも眼鏡を掛けると何か真面目っぽく、理知的に見えるから不思議だ。何気なく手にとって掛けてみる。
(うわ、やっぱりぼやけて見えるな…)

 「何かわいいことしてんの、イズミ…。」
急に後ろから抱きしめられ、耳元で囁かれる。俺は吃驚して思わず声を上げた。
「おまっ、気配消して近づくなっ!!しかも抱きつくなっ!!!」
晃司はわざとこうやってそっと俺に近づいて何かする。俺だって決して鈍い訳じゃない、こいつの方がうわてなんだ、ちくしょう!
「眼鏡姿ってのもいいね、ソソラれる…。色っぽくて…。あ、バーテンの仕事してた時にもしてたね。すごく似合ってた。」
「……っん…。」

そんな軽口を叩きながら、晃司は俺にキスしてきた。強引だけど甘い、溶けそうなキス…。晃司はそのまま俺をベッドにゆっくりと押し倒した。せっかくきれいにベットメイキングしたのに、とかどうでもいい事が頭に浮かぶ。すっかり毒気を抜かれた俺は、それでも晃司に問い掛けた。
「…ばか…おまえっ……仕事中だろ…が…んぅ……。」
「眼鏡掛けたまんまと思ったけど、やっぱやめた。キスしにくい。それにはげしいことしてケガでもされたら困るし…ね。」
晃司は俺の訊いた事なんてまるで聞いてないような事を言う。しかもっ!!
「なっっ!!!『はげしいこと』ってなんだっ、ばかっ!!!!昼間っからサカってんじゃねぇっ!!」
顔を思いっきり背けたけど、俺、きっと耳まで真っ赤になってる。何言ってんだこいつ。ってか昨日あんだけヤっといて、まだ足りねえのかよ。
「やっぱりイズミだって分かってるじゃん、『はげしいこと』。仕事はちゃんと終わらせてきたから、ご褒美ちょうだい?ね、イズミ…。」


 晃司はクスクスと笑いながら、俺の耳元に囁きかけてくる。そして俺が掛けていた眼鏡をそっとはずすと、元あったナイトテーブルに軽く放った。
 頬、瞼、耳、そして首筋と柔らかなキスを落としていきながら、晃司の大きな手がTシャツの裾から這い上がり、俺の平らな胸をなで上げた。
「やめろって…こう…じっ……あっ…。」
「やだ。イズミだってその気じゃん、もうここ尖らせて。こっちだって触って欲しいだろ…。」
Tシャツを捲り上げられ、片方は指で抓まれ、もう片方は熱い舌で愛撫される。割りいれられた膝は俺のアレを押し上げる。その刺激に甘い声が漏れてしまう。

 とてつもなく恥ずかしいけど、晃司の指と唇、それに低く囁くような声、晃司の熱に煽られてしまった俺には、もうあらがう事は出来なかった。胸を撫で回していた手は、片手で器用に俺のジャージを下着ごと降ろし、そのままアレを緩く扱くように動く。
「はぁ…んぅ………。」
「イズミのもっと感じてる声、聞かせて…気持ちイイ顔、見せて……。」


 うっすらと目を開けると、いつの間にか胸から顔を上げて、俺の顔を見つめている晃司と目が合った。
 俺だけしか知らない晃司の表情(かお)。
 俺はキスをせがむようにもう一度目を閉じ、軽く喉をのけ反らす。晃司はちゃんと分かってくれる。普段から絶対的に言葉が足りてない俺のちょっとした仕草や表情で、すぐに俺の気持ちを察してくれるから。
「マジでかわいい…。」
ぼそっと呟いた声が聞こえた後、貪るような激しいキスをされ、さっきよりも晃司の手が俺を強く握りこみ、扱かれる。激しいけど決して強引ではない愛撫に俺の身体は素直に反応してしまう。
「…んんぁ……。」
「前だけじゃなくて後ろもイジって欲しくなった?そんなに腰浮かせて…。」

 晃司はいつもワザとこういうことを意地悪して言うんだ。俺が恥ずかしがると知ってて。晃司の指が俺の後ろに伸びてきてゆっくりと突き入れられる。
「あぅっっ………やっ…。」
 昨日の夜も晃司を受け入れていたソコは俺のを扱いてたせいで濡れている晃司の指をすんなりと迎い入れ、あんまり苦しく無い、…というかむしろ背筋にゾクゾクとあの感覚が走る。
「拓人のナカ、柔らかい。昨日もあんだけヤったもんね…。これならすぐ気持ちよくしてあげられる。」
 晃司はそう言って俺の中に突き立てる指を増やし、解すように掻き回す。ぐちゅぐちゅとやらしい水音がして、俺の耳も犯されていく。
「ふぅ……ん………あぁっ…こうじっ…もぅっ……。」
 ナカのいいトコロを責められて、自然と腰が動いてしまう。思わず強請るような声が口をついて出た。

 「おねだりが上手になったね、タクト。」
満面の笑顔で俺に軽く啄ばむようなキスをくれた晃司は、俺の中から指を引き抜くとすでに熱くなっていたものを代わりに宛がった。
「いくよ…。」
 耳元で低く囁かれる声。俺の強張った身体を宥めるかのように、そのまま耳朶を柔らかく噛まれ、耳に舌を這わされる。俺は晃司の背中にそっと腕を回した。


 俺の口から吐息のような声が漏れた瞬間、晃司は俺の中に捩じ込んできた。
「ひっ………んぁぁっ…。」
思い切り喉をのけ反らし、俺は晃司を受け入れる。片腕で俺の腰を支え、晃司はゆっくりと出し入れを繰り返しながら、執拗に俺に囁きかけてくる。
「…ねぇ……昨日みたいに『気持ちイイ』って言って?オレ、すげー興奮した…。」
晃司に後ろから突き上げられて、うわ言のように掠れた声で言った言葉をしっかり聞かれていたらしい。昨日の事を思い出し、俺の身体の熱が増す。恥ずかしくて晃司に縋り付き、肩口に顔を埋める。
「やぁ…そんっ…なこと……言うなっ………。」
「恥ずかしくて感じた?今、オレの締め付けた…。」

 晃司の愛撫に慣らされた身体はゆるく出し入れされるだけじゃとても足りなくて、晃司もそれを分かっていてわざと焦らす。何だかその余裕のある晃司に腹が立って、俺は晃司の耳元に噛み付くように言った。
「もっと……昨日みたいに…激しく……しろ…よっ……。」
「………イズミ…それ反則…。」
呻くように言った晃司が俺の身体を抱き起こした事で、より深く晃司を銜え込む。ちょっと眉根を寄せた晃司の切羽詰った顔が滲んだ視界に入った。
「言ってくれるまで焦らそうと思ってたけど、ダメ…オレが我慢できない……。」
「ぅん…はっ…ぁっっ……。」
 舌を絡め取られるような濃厚なキスをしながら晃司は俺を下から突き上げる。ベッドのスプリングが二人分の体重をうけて、ギシギシと音を立てる。俺を抱えあげた事で空いた手でアレも扱かれる。
「はぁっ…ぅ…こうじっ………もう…ぁあっっ……。」
「…いいよ、タクト…イッて……オレもっ………。」
 揺さ振られ、奥まで突かれて、俺は晃司の頭を抱え込むようにしながら果てた。その後すぐ、晃司の息を詰めたような掠れた呻き声が聞こえて身体の奥で晃司が放った熱いものを感じた…。




 俺は腕枕されながらも晃司に背中を向けていた。
「いずみ、ごめんね。あんまり可愛かったから、ついがっついた。」
苦笑するように俺に話し掛けてくる。俺としては別に怒ってる訳じゃない。ただ、さすがの俺でも連日こんなに激しくされれば、足腰が立たなくなる。ほんとは晃司がこの間「美味しい」と言ってくれたパスタを夕食に作ろうと思ってたんだ。でもこれじゃ、しばらく動けない…。
「こっち向いてよ、いずみ。俺、いずみの髪に触りたい、頭撫でたい…。」
寂しそうに呟く晃司の声が頭の後ろで響く。片腕の晃司は俺がこのままの体勢でいると、確かに何も出来ない。素直に寝返りをうち、晃司の胸に顔を埋めた。一瞬驚いたのか、晃司の動きが止まったけど、すぐに俺の頭を優しく撫でてくる。
「機嫌、直してくれる?」
胸に耳をつけているから全身に晃司の声が響く。ちょっと戸惑ったような、困ったような、そんな声。
「…………今日の夕食、お前が作れよ。」
ボソっと呟いたら…。
「了解。」
と嬉しそうに微笑みながら、晃司は俺の額に軽く音をたててキスをした。








知る人ぞ知る、というか今の子達は知らないのかしら?この作品…; マー○レット連載当時はちゃんと毎月買ってました(笑)。たくは自分勝手なこーじに好きにされてしまえばいい、ふふっ。
(back ground:『音信不通』様)


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