Novel




満たすもの、満たされるもの





 昨日の戦闘の際、怪我を負った。仲間をかばった所で太腿を切りつけられた。高耶としては大した傷では無いから普段通りに警備につこうと隊舎を出た途端に中川に見つかり、5針も縫ったんですから大怪我です、安静にしとって下さいと釘を刺されてしまった。そのおかげで今日一日、卯太郎が見張り役のように高耶に張り付いている事になった。
「仰木さんは働き過ぎですき。今日はゆっくりしとって下さい。」
にこにこと邪気の無い顔でそう言われてしまっては、さしもの高耶も大人しくしているほかなかった。
「……ああ。」
諦めたように相槌を返す姿を見て卯太郎はひとまず安心したようだ。高耶はぼんやりと窓際に佇んで、外を眺めている。
「何か必要なものがあったらいつでも声掛けて下さい。」
卯太郎が後姿に声を掛けると、外の一点を見つめたまま高耶は言った。
「橘にここに来るように伝えてくれ。砦の警備の事で話しがあると。」
「そういえばいらしてましたね。分かりました、伝えときます。」

 失礼しますと告げた卯太郎の声も、扉の閉まる音も高耶には届いていなかった。思いを馳せるのはあの男の姿にだけ。



 強い視線を感じていた。誰のものか、確認するまでも無かった。直江は赤鯨衆の中では定番となった黒いサバイバルジャケットではなく、外地視察の為に用意されたダークスーツに身を包んでいた。きっちりと締められたシルバーのタイが男のストイックさを更に強調する。簡単な事前連絡を済ませ、足早に車へと足を向ける姿はまるでオフィス街を颯爽と行くエリートサラリーマンのようだ。その背では確りと熱い眼差しを受け止めていたが、振り返る事はしなかった。





 すでに外は夕闇が迫っていた。直江は薄暗い廊下をゆったりとした足取りで進んで、そして立ち止まる。目的のドアを軽くノックしたが、返事は無い。確かに気配は感じられる。答えのない事には一切気にせず、そのまま部屋へ入った。
 高耶はベッドヘッドにもたれ掛かり、何か資料のようなものに目を通していた。ベッドの脇の小さな机の上のライトだけがぼんやりと灯りをともしている。勝手に入ってきた人物に顔を上げる事もしない。
「遅かったじゃないか。」
投げられた硬質な声は隊長としての威厳を湛えている。申し訳ありません、と一言謝罪の言葉を口にしてベッドの近くへ歩み寄った。
「怪我をされたと聞きましたが。」
掛けられた声に高耶はやっと顔を上げ、鋭い瞳で直江の姿を捉えた。その熱い眼差しを難なく男は受け止めている。高耶は手にしていた資料をシーツの上に投げ出しておもむろに直江の手を取り、自分の太腿辺りへと導いた。
「ここ。……疼いてしょうがねえ。」
男を誘うように忍び笑いを浮かべるその姿は高級娼婦のようだ。直江はベッドの端に腰を下ろし、傷の辺りを労わるように撫で擦る。
「また無茶をしたのでしょう?」
太腿を慰撫する手は段々と熱を帯びてくる。すると高耶はいきなり直江のタイを掴み、強引に顔を引き寄せた。
「他んトコも疼くんだ、どうにかしてくれよ。」
口元に薄い笑いをはいて、高耶は掠れた声でそう告げた。お互いの熱を感じる程の、吐息を感じる程の距離で。

 「いけない人だ…。」
直江は一度目を伏せながらそう呟いて、まるで噛み付くように強く唇を押し付ける。
「こんな風に他の誰かを誘惑したりしたの?きっと皆、喜んであなたを抱いてくれますよ。」
口付けを交わしながら、直江は嘯くように囁く。
「最後まで付き合えるヤツなんていねえよ。俺のあまりの淫乱さに呆れて音を上げるに決まってる。」
高耶は直江の頭を抱えこみ、髪をかき乱していく。キスを貪りながらも、高耶はクスクスと笑い出す。直江はどうしたのかと目で訴える。
「なんか、昔のお前相手にしてるみてえ。」
ここ最近はずっときちんとした正装というものを見ていなかった。スーツ姿は昔の直江を思い出させる。高耶と、景虎との再会を果たし、その道程で思い出すのは常にスーツに包まれた体躯だった。
「黒いスーツでなくて残念ですね。……俺の姿に欲情した?」
確信犯の顔をして直江は言った。高耶はそれに答えず、直江のタイを乱暴に解いて、ベッドへと押し倒した。そのタイで直江の両腕を拘束し、ベッドヘッドへと括りつけた。直江はそんな高耶の姿をじっと見つめたまま、好きにさせているだけで抵抗はしない。
「俺を満足させられんの、お前だけだ。」
高耶は自らの手でズボンと下着を取り払い、直江の顔を跨ぐようにして膝立ちになった。
「………しゃぶってくれよ…。」
高耶のソレは既に兆し始めていた。艶笑を浮かべたまま、直江の顔を見下ろしている。その瞳は潤んでいて、堪らなく扇情的だ。
「キスだけでこんなにして…。」
直江は震えながら勃ち上がるソレに根元からねっとりと舌を這わせていく。かさの淵に口付け、尖らせた舌先で先端をくじってやる。亀頭を口に含み、ディープキスでもするように舌を絡ませていく。
「くっ……ぁ…いい、ぜ…直江……。」
緩く腰を動かしながら、高耶は目を細めて自分のモノに奉仕する男の顔を凝視している。熱い吐息のせいで唇が乾くのか、引っ切り無しに舌で嘗め回している。直江も高耶の目を見つめて、逸らす事はしない。
「あなたの味がしてきましたよ…とてもいやらしい味だ。」
その体勢のまま、高耶は背後を探るように手をやり、直江の腹から更に先へと伸ばしていく。そこで主張するモノを掌で弄る。後ろ手のままベルトをはずし、ファスナーを下ろして前をくつろげた。
「………俺も舐めてやろうか。」

 「はっ…すげー……どんだけデカくすんだよ、お前…。」
シックスナインの体勢でお互いのモノをしゃぶり合う。高耶は両手で包み込むように直江のソレを扱きながら、先端に溢れてくる雫を舌で掬い取る。
「高耶さん、もっと腰おとして。可愛い下のおくちも舐めてあげる……。」
言われるがまま高耶は直江の顔に座り込むように腰を下ろす。そう、いい子、と囁いて直江がぞろりと舐め上げてやると、高耶の口からは嬌声が漏れた。
「高耶さんのココ、ひくひくしてますよ。弄って欲しくて堪らないんでしょう?」
揶揄するように直江は言う。その間も穴の淵に舌を這わせ、舌先で突くように刺激を与えてやると悦んでいるかのように収縮を繰り返す。獣のように喘ぐ熱い吐息が直江のモノに降りかかる。高耶は腕を背中へ回し、唾液に濡らされている後孔へ指を運んだ。直江はその指にも舌を這わせ、濡らしていく。
「……っぁ…はぁ……。」
高耶は自ら指を中へと沈め、淫らに蠢かす。卑猥な水音がたつ程に。
「ああ、そんな風にして欲しいの?でも、指じゃ足りないはずだ…もっと太くて大きいのがスキでしょう、あなたのココは欲張りだから……。」
出入りする指と後孔とを舐め回しながら挑発する。直江のそんな言葉を受け止めて、高耶は溶けきった肉筒から指を引き抜き、体勢を変えた。
「食わせろよ…腹減ってんだ、オレ……。」
後ろ手に直江のモノを掴んだまま、高耶はゆっくりと腰を落としていく。喉を仰け反らせ、唇を薄く開けてオトコを受け入れる。全てを収めきって深い息を吐いた。そのまま直江のシャツへと手を伸ばしてボタンをはずし、前をはだけていく。露わになった胸を撫で、そして引き締まった腹筋を辿るように指を這わせる。その卑猥な指先に直江の身体がびくりと震え、それに呼応するように高耶の口からは小さな喘ぎが漏れた。それをきっかけに高耶は自ら腰を揺らめかしだした。
「…っ……あ…んんっ……。」
直江の腹に手をつきながら淫らに腰を振る。オトコを銜え込むことに悦び、震える身体はより淫靡な空気を撒き散らしていく。それでも直江は高耶の仕儀をじっくりと味わうようにただ見つめたままで。
「もっと深く出来るでしょう…奥まで、あなたのイイトコロまで挿れて、俺を味わって……。」
手が自由にならない直江は、言葉で、声で高耶を煽る。
「おまえのデカいの……はっ…すげー、気持ちイイっ…くぅ…ぁ……。」
腰を振るのに合わせて揺れる、育ちきった性器を扱いて高みを目指す。そうしながら高耶は激しく腰を振りたてる。
「…ぁあ……出るっ…でちまう……うぁっっ…あ……。」
「いいですよ、たくさん出して……はしたなく俺の腹の上にあなたのしろいの、ぶちまけて…。」
高耶は細い嬌声を上げて達して、吐き出された白濁した体液は直江の腹を汚した。緊張の解けた身体を直江に預けるように覆いかぶさる。まだ硬度を保っている直江のモノを浅く銜え込んだままでキスを強請る。舌を絡め合い、唇を吸い上げる。

 「…なあ、これ解いてやるから、もっとヨクしてくれよ……なおえ…。」
吐息と一緒に言葉を紡ぐ。高耶は両手を伸ばし、直江に施した戒めを解いていく。
「まだお腹いっぱいにならない?」
「全然足りねえ……。」
直江は告げられた台詞に笑みで返し、自由になった身体で今度は高耶の上に覆い被さる。
「じゃあ、どんなのがいいの?このまま挿入する?それともあなたの好きなバックがいい?」
高耶の耳へと熱を帯びた声を流し込み、今まで触れられなかった身体を確かめるように全身を撫で回す。Tシャツを捲くり上げ、硬くしこった乳首も抓んでやる。
「…あっ……ぜんぶよこせっっ………あたまイカレるくらい、コレ、くれよぉ…。」
高耶は自分の下腹に当たる塊を握り、目の前の男を唆す。この男の冷静な仮面を剥ぎ取って、自分に溺れさせたい。自分をもっと欲しがるように。醜い欲望を露わにさせて、貪り食われたい。死ぬほどイカせて欲しい。
「…………御意。」
低く押し殺した声で宣言する。それはまるで、仮面を脱ぎ捨てる合図のようだった。




 痩せた月が空に浮かんでいたが、その光もどこからか流れてきた雲に遮られ、闇が訪れる。小さな灯りをともした部屋も深い夜の闇に包まれる。
 秘め事を交し合う二人の身体は空が白み始めるまで離れる事は無かった。







ついに書いてしまいました、ミラージュ。しかもこの執筆中のBGMもちゃっかりミラージュでした。
何だかBL小説というより、官能小説みたいになった次第(笑)。だって、この二人だもん、仕方無い…はず。
どうしても言わせたかった「御意」も無理やり入れてみたりしました。この続きも考えてあったのですが、あまりにエロばっかりなので、やめました。
(back ground:『うさぎの青ガラス』様)


気に入って下さったら、是非ポチっとお願いします。




Novel TOPに戻る