声だけでは足りなくて




 学は今、海外にいる。コレクションの仕事が入ったとかで、二週間前に成田から旅立った。コレクション自体は3日やそこらだが、衣装合わせやらリハーサルやらでかなり時間が取られるらしいのだ。
 家主は居ないと分かっていながら、来ずにはいられなかった。メールは相変わらずこまめにくれているし、そういう所はぬかりがない。それでも、日本に居て忙しくて会えないのと、海外に居て会う事が出来ないのとでは、何だか気持ちが違うのだ。もの凄く遠くにいると思うだけで、より寂しい気がしてしまう。自分でも馬鹿な考えだと思うけど、どうしようもない。それだけ俺は学の事を好き、なんだと思う。

 居ないのをいい事に、実は毎日のように学の家へと足を運んでいたりする自分が嫌になる。少しでも時間が出来ると、足は自然とここへと向いていて、結局一人で学の部屋で過ごしている。特に何かある訳でも、何をするでも無いのだけれど。
 『いつ帰って来るのか』聞いてみたくて、でもはっきりとした日付を確認するのは何故かためらわれて、学からきたメールについとりとめのない返信をする。帰国日が自分の思っているよりもずっと先だったら、とかいらない不安を抱えてしまって。


 日課となった訪問。居ないのは分かっているから。合鍵を使って勝手に入る。
 ここに来る理由。本当は自分でも分かっている。少しでも学の気配を感じたい自分がいるのだ。学の匂いのする場所で寂しさをまぎらわしている、そんな自分を女々しいと思いながらもやめられなかった。

 でも、学がこの部屋に足を踏み入れなくなって二週間以上。気配も薄らいできている。
 ふらふらと、思わず寝室へ向かってしまう。それまで入っていなかった部屋。ドアをゆっくりと開けた。目の前の大きな窓には夕闇の中に浮かぶ東京タワーの灯りが見える。都内一等地の高層マンションは夜景もきれいだ。この景色も家賃に含まれているらしい。それ程見事な眺望だ。



 吸い寄せられるように歩を進めて、ボスンッとベッドへと身を投げた。学の体格に合わせた特注サイズの大きいベッド。少し鼻腔を掠めた慣れた匂い。もっと欲しくて、枕に顔を埋めてみる。

「……ぁ………っ…。」

 学の匂いに包まれて、まるで抱かれているようで、身体中が熱くなってくる。
 俺の意思なんかおかまいなしに身体は快楽を求めて疼き出す。身体を丸めて自分の身体を抱えこんだ。その時、ジーンズのヒップポケットに入れたままにしていた携帯がメール受信を知らせる音をさせた。大げさな程に身体が跳ねてしまった。心臓もバクバクと音を立てている。でもそれは、驚いたせいだけでなくて…

 震える手で携帯を取り、メッセージを確認した。

『何してる?』
たった一行、学からのメッセージ。まるでその言葉を耳元で囁かれたような錯覚を覚えて、更に身体は熱くなる。ジーンズの前がキツくなっていくのが自分でも分かる。緩慢な動作でメールを返信する。
 俺もたった一行で。

『東京タワー見てる』
 ヒトん家で、しかもベッドの上でサカッてるような変態だって思われんのは嫌だ。それでも学の声が聞きたくて、まるで謎掛けのようなメールを返してしまった。送信し終えてから祈るように携帯を手に握り締めたままでいた。


 すぐに折り返しがあった。
『電話とれ。俺だ。』
疼きが高まっていく中でメールを見終えた瞬間、枕元にある電話のベルが鳴った。3コールで何とか上がった息を整えて、電話を手に取った。

 「……もしもし…。」
『俺がいなくて寂しくて、浮気なんかしてないだろうな。』
少し揶揄するような声音。そんな台詞でも胸が熱くなって、息が詰まる。学の声が身体に染み渡っていくようで。
「…そんなこと…しない……。」
『じゃあ、俺のベッドで、そんな可愛い声させて、何してた?イケナイこと、してたんじゃないのか?』
学の言葉にどくんと心臓が高鳴った。まるで見透かされているようで。
「なに…言って……。」
しどろもどろになりながら、なんとか言葉を紡ぐ。身体がもった熱のせいで、喉がカラカラに渇いてしまっていて、掠れた声しか出ない。

『透真…。』
囁かれた名前。そんな声で呼ぶな。ベッドの中で聞かせるような甘い声で俺の名前を口にするなんて、卑怯だろ…。
「……っ…学………。」
呼んで返した名前は羞恥で震えていた。
『潤んだ目ぇさせて、やらしい顔してるんだろ…。』
学の艶っぽい低い声。疼きが酷くなっていく。
『胸、触ってやれよ。透真はそこ、すげー感じるだろ…。』
その声に操られるように、そろそろとTシャツの中へと手を潜らせてしまう。
「…はっ……ぁ…。」
そこは既に尖っていて、少し触れただけなのに声が漏れてしまった。枕に顔を半分埋めた状態のまま、ぎゅっと目を瞑って学の声だけに聞き入ってしまう。
『俺がするみたいに弄って。』
いつも与えられる愛撫の記憶を辿るように、指の腹でなぞり、摘み上げる。その刺激に一段と高い声が漏れた。
「ぁあっ……。」
『そんなイイ声出して………もっと聞きたい。』
その感触を身体が覚えてしまっているからなのか、耳元に吐息が掛かっている気さえする。背筋を快感が走り抜ける。
「ふ……んっ…ぅ……。」
『…もうガチガチだろ?ちゃんと下も触ってあげないと。』
小刻みに震える手をゆっくりと下肢へと伸ばしていく。ジーンズのホックをはずし、ジッパーを下ろす。ジーンズも下着も腰を捻るようにして膝まで下げた。学のベッドの上でこんな恥ずかしい格好して、しかも一人で何やってるんだと頭の片隅で理性が訴えてくるけど、熱に浮かされた身体はもうそれどころじゃない。もう収まりのつく状態じゃない。

 頃合いを見計らったかのように学の声が響く。
『自分で扱いて…それとも、俺が舐めてやろうか。こうやって……。』
途端にピチャピチャと濡れた音が受話器から聞こえた。まるで本当にそうされているようで、握った自分のモノが先走りを溢れさせ、濡れそぼっていく。その滑りが手伝って、モノを扱く手が早くなり、卑猥な音が立つ。
「……あっ……っ、ぁ…がく…ぅ…。」
甘えるような声で名前を呼んでしまう。
『でも、もっと感じるところ、あるよな。いつも俺を受け入れてくれるトコ…ほら、ヒクついてきてる。』

 ずくんっと身体の芯が疼いた。身体の奥が、熱い。
「や…そんなこと……言うな…ぁ……。」
『ソコに指、挿れてみな。今よりもっと気持ちよくなって、もっとやらしい声、聞かせて。お前の声で俺を気持ちよくさせて……。』
電話から聞こえる学の声も熱を孕んだ、吐息交じりのものになる。導かれるまま透明な先走りで濡れた指を更に後ろへと這わせる。ヒクつくソコに恐る恐る指を埋めていく。
「…ぅ…あっ……あぁ……。」
『お前のナカ、熱いだろ…もっと掻き回して。……そう、いい子だ。』
ぐちゅぐちゅといやらしい水音が後ろから聞こえてくる。その音にも、学の声にも翻弄されて、夢中で指を出し入れさせて、内を掻き回す。
「ひっ…んぁ……ああっ…。」
まるで自分の声で無いような、鼻にかかった甘ったるい声で喘いでいた。指がある場所に触れた途端、頭が真っ白になる程の快感を覚えてしまって。
『透真のイイトコに当たった?今の声、感じまくってる時の声だ…凄い締め付けてきてる…。』
恥ずかしいとか、そんな気持ちはとうに消え失せていて、学の声で犯されて、昂ぶって、はしたない声を上げてしまう。
「…んっ…もぅ…でる……あ…あぁっ……。」
『一緒に…透真……っ。』
「学っ…がく…ぁああ…………ふっ…ぁ………。」
達したことで一気に身体が弛緩する。息を整えようと浅い呼吸を繰り返す度に、吐息交じりの声が漏れてしまう。



 『一人でスルより気持ち良かっただろ?』
きっとあの、いつものニヤけ顔で言ってる。言葉の端々にそれを感じる。
「………うるせぇ…。」
なんとか持ち直して、悪態を一つ。
『ツレねえな。俺としては偶にはこんなのもいいと思ったんだけど。お前、すげー可愛かったし、俺も気持ち良かったし。』
「恥ずかしいこと言ってんじゃねえっ!」
今までの自分の姿を思い起こして、急激に恥ずかしくなる。何やってんだよ、俺。
『帰ったら、速攻でお前抱くから。』
何でこいつはこんなこっ恥ずかしい事、平気で言えるんだ。訳も分からず怒鳴り返した。
「うるせえ!!二度と帰って来んなっ!!」
顔は真っ赤。自分で分かる。でも、心のどっかで期待してる。学が俺を抱き締めて、大きな手で頭を撫でてくれて、「好きだよ。」と囁いてくれて。ああ、そうだよちくしょう、好きなんだよ、悪いかっ。

『透真。』
おもむろに名前を呼ばれる。何で学の声はこんなにも俺をおかしくさせるんだ。
「………なんだよ。」

 『好きだよ。』

 「……早く帰って来い、ばか…。」







 電話H、これ王道。という訳で書いてみました。透真に一歩上行く一人Hを教えてしまった学、という事で。
 鬼畜っぽい攻めなら、もっと恥ずかしい事言わせて、とかもありなんですが、学はそんなキャラじゃないんです。あくまで余裕な大人攻め。
(back ground:『NEO HIMEISM』様)


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