Novel




ハプニング at the midnight 1





 「あーっ、もうっ!何で忘れてきてんだよっ!!」
自分の部屋で一人、わめいてみたところでどうしようも無い。テスト前、先生たちから脅されて、今回ばかりは少しは勉強しようと思って机に向かったものの、いきなりつまずいてしまった。明日のしょっぱなのテストは英語。教科書を開いたのはいいが、最初から分からない単語に当たり、英和辞書を探したが、無い。普段、教科書やら資料集やら、授業で必要なものは全て学校に置きっ放しの俺は持って帰ってくるのを忘れたらしい。

 (仕方ねえ。兄貴に借りるか。)
体育くらいでしか5を取った事の無い俺と違って、頭が良くて、今は法律系の勉強をしている2つ上の兄貴。昔から勉強が出来て、よく教えてもらっていた。面倒見も良くて、誰からも頼りにされて、おまけにモテる。女が放っておく訳がない。優しくて、そこらの芸能人なんかより顔も良いときた。格好いいというか、男にしとくのがもったいないんじゃないかと思うような、綺麗な顔をしている。美形と表現するのがしっくりくる。ほんとに非の打ち所が無いと言っていい。
 そんな兄貴で腹立たないか、とダチに言われた事もあるけど、体力バカの俺とはあまりに頭の出来が違い過ぎるし、顔立ちだって根本の作りが違うのは自分で分かっていたから、張り合う気にもならなかった。

 部屋を出ると、廊下は真っ暗だ。2階は俺と兄貴の部屋だけだから、兄貴の部屋の電気がついていれば分かる。
「あー…もう寝ちまってんのか……。」
それならこっそり部屋入って、目当ての辞書だけ借りてくればいい。ある場所は大体分かる。なるべく足音を立てないように、忍び足で兄貴の部屋の前まで行く。
 そこで気付いた。くぐもったような声が聞こえてくる。
 電話でもしてんのか、それとも寝言か。とりあえずそっと兄貴の部屋のドアを開けてみる。

 薄く開けたドアから部屋の中をこっそり覗いたら、暗闇の中でぼんやりと白く見えるものが動いていた。
「……っぁ…。」
視界にそれを捉えた途端、今度ははっきりとした、でも抑えた声が聞こえた。暗闇に慣れてきた事でそれの正体が分かった。
 ベッドの上、膝立ちになって壁に手をついた人の後ろ姿。
(あ、兄貴…?!)
思わず声が出そうになったが、咄嗟に手の平で自分の口元を覆う。パジャマの下を膝までずり下げて、しかも右手はその丸出しのケツの辺りであやしく蠢いている。
 いや、そりゃ兄貴だって男な訳だから、オナニーだってするだろう……だろうけど、これはどうなんだ…。

 ぐるぐるとそんな事を考えながらも、目の前で繰り広げられるエロい光景に釘付けになる。
その内、後ろに回っていた手が枕元辺りを探ったかと思うと、何かを手にしていた。
(あれって……もしかしなくても………。)
 いわゆる大人のオモチャというヤツだ。兄貴はソレをケツに押し当てるとぐっと力を込めたのが分かった。
「あ、ぁっ…う……。」
ソレを呑み込んでいくにつれて、兄貴の口から切なげな声が零れる。すっぽりと全部くわえ込むと、壁にもたれるようにしていた身体がズルズルとベッドに落ちていく。
 バックからヤられる女みたいな体勢になって、緩慢な動きでバイブを動かし始める。
「…んぁっ……あ、う…ふ……んんっっ……。」
手の動きに合わせて吐息交じりの熱っぽい声を上げる。明らかに感じていると分かる声。
 見ちゃいけないと分かってはいるが、目が離せない。普段、真面目な優等生といった雰囲気からは想像も出来ないあられもない姿。男だし、ましてや兄貴だし、と頭では理解しているものの、身体は本能のままに反応してしまう。バイブを銜え込んでよがってるなんて、AVばりの状況にヤリたい盛りの男子高校生が興奮しない訳が無い。
 頭を枕に埋めるような体勢になって、より腰が高く上がる。出し入れも激しくなって、片方の手はどうやら前を扱いているらしく、そっちの手も忙しなくなっていく。
「うぁ………あっ、はっっ…あぁ、んっ……。」
一際高い声が上がって、身体をビクビクと震わせた後、どさりとベッドに突っ伏した。
(すっげ…ケツ弄ってイッちゃったのかよ……。)
俺はそっとドアを閉めて、自分の部屋へと戻った。

(とんでもないモン、見ちまった…………。)
頭は混乱したままだけど、俺のムスコは治まらない。すっかり元気になってしまってるコレをどうにかしてやらないと……結局、俺はその欲望に負けて、兄貴の姿を思い起こしながらヌイてしまった。
 勿論テストはボロボロ、補習授業を出席足りない連中と受けて、その後再テストで何とか乗り越える事は出来たけど、問題はそこじゃない。
   あれ以来、どのエロ本見ようが、AV見ようが、兄貴の姿に結びついてしまう。あまりに生々しい記憶が強烈過ぎて。
 夜のオカズはあの夜の兄貴の姿。あんな風にいやらしくバイブを銜え込んでいたケツに突っ込んだらどんな感じだろうとか、どんな声を上げて俺のモノを受け入れるんだろうとか、そんないけない想像をしながら毎回フィニッシュを迎えてしまうようになった。



 夏休みの最初は補習と部活でほとんど兄貴と顔を合わせる事は無かった。だから、とりあえず気まずい思いをする事も無く、表面上は平和に過ぎていた。
 それなのに…
 部活もお盆で休みになって、ダラダラと家で過ごす位しかする事も無い。
 昼頃にのそのそと起き出してみたら、母さんが居ない。どっかに買い物でも出掛けてんのかと思って、カップ麺でてきとうに昼飯を済ませて、リビングのソファにだらしない格好で寝そべって、TVを見る。寝過ぎたせいか、頭はぼーっとしてるし、体もダルい。大した番組もやって無くて、結局またウトウトとしてしまう。

 「…うと、悠斗。起きな。」
「ん……ぁ?」
「お前、テレビもつけっ放しでこんなとこで寝てんなよ。いくら夏でも風邪ひくぞ。」
俺の肩を軽く揺すって起こしたのは兄貴だった。いつの間にか部屋は明かりが付いていて、もう日が落ちてたんだと分かる。いつもならこんな時間になる前に母さんに叩き起こされるのに。
「あ…母さんは?」
まだ半分寝ぼけたまんま口にした。
「聞いてなかったのか?母さんは父さんと田舎に旅行がてら帰るって言ってただろ。」
(ああ…そういえば、そんな事言ってたような……。今日からだったんだ。)
ぼんやりとした頭で考える。いや、ちょっと待てよ………って事は……。
 がばりと体を起こして、ソファに座る。目の前の兄貴の姿をはっきりと捉えて、俺は固まった。半パンに白いTシャツ。風呂上りで髪をちゃんと拭いてないのか、肩口辺りが濡れて肌に張り付いている。何か、裸よりもむしろエロいと感じてしまう。
 ほら、あれだ。女子の制服の白シャツがプールの後とかで濡れてて、下着が透けて見える方が実物を見るよりエロく見える、みたいな。
 そんな事が頭を駆け巡る。
 おまけに寝起きのせいで体が勘違いしてるのか、下半身に若干の違和感が…。このまま兄貴の姿を直視してたら、絶対にヤバい。
「メシ、食わないのか?」
「い、いいっ!部屋で寝直すからっ!!」
俺はあたふたと自分の部屋へと逃げた。ベッドに腰を下ろして、がっくりと俯く。焦ってたせいもあるけど、別の意味でも心臓がバクバクと音を立てる。兄貴のあの微妙で絶妙な姿。男煽ってどうすんだ、ヤラれてえのかよ、とか自分勝手な文句を言ってやりたくなる。
 あ、でも兄貴はもしかしなくても、アッチの趣味、あるんだよな。
 妄想はあの夜の兄貴の姿を再生し出す。これじゃいつもと変わらねえと思いながらも、手はすっかり元気な下半身に勝手に伸びていく。
「…っ……。」
自分でも何やってんだと思いつつ、止められない。Tシャツを脱がせ、下着も引き摺り下ろして、あの時みたいに四つん這いにさせて…
「くっ……。」
ヤバい、イきそう………。