鬼灯を携えて 1




 一週間に一度、こうやって美果様の部屋に何か花を届けるのも仕事の一つになっている。
 今日は鬼灯を活けた一輪挿しを手にしている。庭の花壇の端で綺麗に色付いているのを見つけて、これに決めた。丁度良い一輪挿しの花瓶があった事も幸いした。信楽焼きの素朴な味わいのある花瓶。それに鬼灯の橙が鮮やかに映えて、とても綺麗だ。
 扉を軽く叩いて、返事を待つ。お入りなさい、との応えを受けてそっと扉を開けた。美果様が机に向かっているのが目に入る。どうやら仕事の最中のようだと分かり、邪魔にならないように静かに寝台の脇の円卓に花瓶を置いた。活けた鬼灯の向きを整えて、部屋をあとにしようと黙礼する為に美果様の方に向き直る。



 机の上の鮮やかな色彩に目を奪われた。繊細に描き込まれた筆致に大胆な配色。和と洋が入り混じり、色とりどりの花が咲き乱れているモダンなものだ。振袖などに仕立てて、黒髪の美しい、色白の艶やかで華やかな女性が身に着けたら、さぞかし似合う事だろう。

 黙礼する事も忘れ、思わず机の上の美しい絵に見惚れてしまっていた。筆を持つ美果様の手がふと止まった事で、惚けていた俺は我に返った。
 慌てて美果様の方に顔を上げると、椅子に座っている美果様の少し見上げるような視線とぶつかった。
「あ、あの申し訳ありません。」
不躾に見惚れて仕事の邪魔をしてしまった事を急いで詫びて、早々にその場を立ち去ろうとしたが、それは叶わなかった。美果様が俺の腕に掴んで引き止めたのだ。
「どうです?この意匠は?」
伺うように微笑んで美果様は俺の顔を見上げてきた。俺は戸惑いながらも思った事を伝える。
「難しい事は俺には分からないんですけど…とっても綺麗です。華やかだけど、上品な感じもあって。えっと、とにかく綺麗、です…。」
大した語彙が無い自分が恥ずかしくて顔を俯かせると、腰を抱き寄せられた。気が付けば、美果様の膝の上に乗せられていた。
「浴衣、とても似合っていますよ。今度は着物を仕立てましょうね。」
腰に回されていた手が、肩から腕を浴衣の感触を確かめるように撫で下ろしていく。
「そんなっ…頂けません、お着物なんて……。浴衣よりもっと高価じゃないですかっ!」
美果様の方に上体を捻るようにして言い募る。思わずとった体勢だったが、美果様の顔を間近で見る事になってしまい、どきりと胸が跳ねた。真正面から俺を見つめる柔らかい瞳。
「蒼太の名前には『あお』という字が入っていますよね。深い海を思わせるような蒼を基調に。帯は…そうですね、銀糸で模様を入れたものにしましょう。」

 「み、美果様っ!」
俺の言う事には全く意を介さずといった風情で、俺の目を見つめたままで話し掛けてくる。気恥ずかしくて、目を逸らしてしまいそうになると、やんわりと両手で頬を覆われる。
「知っていますか?身に着ける物を贈るのは、それを自分の手で脱がしたいから、なのですよ。」
俺を見つめる細めた目。微かに笑いも含んでいるような光を湛えている。
「あの………っ…。」
後ろから抱きすくめられるように体勢を変えられて、ふいに伸びてきた手が浴衣の袷から差し入れられた。俺の平らな胸を大きな掌が撫でていく。
「この浴衣もよく似合っていますよ。だからですね、脱がせたくなってしまうのは。」
繊細に動く指先に煽られて、身体はどんどん熱くなっていく。
「やめ…て、くださ……。」
身を捩って逃げを打つが、それは許されなかった。美果様から与えられる淡い刺激にさえ身体は反応し、乳首が硬くしこっていくのが分かる。それを指の腹でなぞられ、気紛れのように爪の先で弾かれる。

 「もうこんなに尖らせて……でも、こうされるともっと良いでしょう?」
「…ひっ、ぁ………。」
いきなり強く抓まれ、上擦った声を上げてしまった。耳元で吐息混じりに笑われて、その息が吹きかかる感触に思わず首を竦めてしまう。浴衣の前を肌蹴られて、露わにされた肩や背中に口付けられて、ぞくぞくとした疼きが背筋を伝って身体中に広がっていく。胸元を弄っていた手が徐に下肢に伸びて、下穿きの上から股間を撫でる。
「触れてもいなかったのに、もうこんなに溢れさせて。そんなにこれがお気に入りでしたか…。」
痛みを感じる程に乳首に爪を立てられ、身体が跳ねる。すると、まるで欲しがるかのように美果様の手に股間を擦り付けるような格好になってしまう。
「ふふ……悪い子だ。」
下穿きに手を掛けられ、引き下ろされる。

 「い、いやっ………。」
言葉だけでの抵抗等何の役にも立たず、そのまま膝裏に手を回され、ぐっと抱えられる。浴衣が完全に肌蹴られ、既に勃起して蜜を零している性器が露わになった。
「たっぷり可愛がってあげましょうね。」
おもむろに伸ばされた手をぼんやりと見つめる事しか出来ない。美果様の右手が机の上を探り、一本の筆を手に取った。黒壇らしき柄で、親指程の太さがある。広い面積の彩色に使うものだろう。
「……や……あんんっ…っ……。」
有ろう事か、それが伸びた先は濡れ光る性器で、根元から先走りを掬うように穂先を這わされた。その初めて味わう感触に甘えるような声が漏れてしまった。
「ああ、沢山溢れてきましたね。」
くすくすと笑いながら言われて、羞恥に頬を染める。先端をくじるように穂先を押し付けられると堪らなくなり、抱え上げられた自分の左膝に額を押し付けて快楽を散らそうとする。段々とさらさらとした乾いた感触から、ぬめるような濡れた感触へと変わっていく。


 濡れた筆先が次に伸びたのは、更にその下にあるすぼまりだった。先走りを塗り込めるように動く筆先に身体が逃げを打つ。
「そんなに暴れると私の膝から落ちてしまいますよ。」
強く抱き込まれて、胸に太腿が付く程膝を高く掲げられる。
「…やです、いやぁ…っ……ぁあ…。」
言葉とは裏腹に秘所への刺激は確実に俺を乱れさせていく。
「物欲しそうに緩んできました。欲しくて堪らない?」
背中から伝わる美果様の熱に、項に掛かる吐息の熱さに、自分でも制御出来ない欲望が身体の奥底から湧き上がってくる。
「欲しい、ですっ…美果、様………。」
美果様の首筋に縋るように顔を埋めて、強請る言葉を口にすると、こめかみに口付けられた。
「では、これをあげましょうか。」
「あっ…な、何…あぅうっっ……。」
美果様の細くて綺麗な指が侵入してくると思っていた俺は、その冷たい感触に驚いて自分の下肢へと目をやった。