二人きりの世界で 5




 貪るように唇を奪い、舌を差し込む。俺の二の腕を掴んでいた手に力がこもる。呼吸さえ奪うように更に深く口付けながら、胸へと手を這わせる。薄い胸を手の平で撫で回すと、すでに硬くなっていた乳首が更に芯を持つ。それを親指と人差し指で優しく摘み上げた。
「んっ………。」
仰のいた拍子に唇が離れ、透真は甘い声を漏らした。今度は胸に顔を伏せ、もう片方を口に含む。軽く吸い上げ、形をなぞるように舌で舐め回すと、透真は身体を捩じって逃れようとするが膝までしか下ろされていない下着が邪魔をし、自由が利かないらしい。俺の下で緩慢に身体を蠢かす様は堪らなく淫らだ。
「……がくっ…や、………そこばっか、いじんな…ぁ……。」
「じゃあ次はこっち、な…。」
俺は臍の辺りにキスを落としながら、膝に絡まっていた下着を引き抜いた。脚を閉じられないように上半身を割り込ませ、そのまま股間に顔を埋めた。
「…ぁ、アっ……。」
透真は俺の頭を掴んで背中を弓なりに反らした。幹に伝い落ちてくる蜜を根元から舐め上げ、先端に口付ける。痙攣しているみたいに震えている太腿を撫でながら、ゆっくりと咥え込んだ。
「はっ……ぅ、…んぁ………。」
口の中のモノはどんどんと先走りを溢れさせ、熱くなっていく。自分のする事で透真が感じてくれるのは嬉しい。透真もそんな気持ちで突然あんな事をしてくれたんじゃないかと勝手に推測して、幸せな気分になる。
「…やっ、出る……はなし………ぁ…。」
か細い声の訴えに俺はソコから口を離した。あっさりと引いた俺に透真は戸惑っているようだ。瞳を揺らしながら俺の様子を窺っている。

 今日はもっと乱れた透真が見たい。

 頭に浮かんだ言葉は口にせず、俺は透真をうつ伏せにさせた。透真の腹に手を回し、膝を立たせるように腰を持ち上げる。引き締まった尻に手を這わすと、透真はびくりと身体を揺らす。太腿を抱え込んで動きを封じてから、後ろの窄まりに尖らせた舌を押し付けた。
「やめっっ………ぁ、うっ…。」
透真は慌てて俺をどかそうと手を後ろへと伸ばしてくるが、不自由な体勢のせいでどうする事も出来ない。もがくようにシーツをかいていた手は、結局顔を埋めている枕の端を弱々しく掴んだ。
 穴の淵に親指を掛け、入口を開きながら唾液を流し込む。きつく閉じていたソコが震えるように綻んでくる。
「分かるか?柔らかくなってきてる…お前のココ……。」
親指の第一関節だけをめり込ませ、入口を広げるように指を揺らすと、枕に顔を押し付けている透真のくぐもった吐息が漏れ聞こえた。浅く埋めていただけの指を抜いて、透真の背中越しに枕元に置いてあったバッグに手を伸ばす。取り出したボトルの中身をたっぷりと手に出し、再び後ろへと持っていく。
 胸を透真の背中に密着させると、しっとりと吸い付くような肌から熱が伝わってくる。

「そんな息殺してると窒息しちまうぞ。ほら、深呼吸してみろ…。」
ぬるついた指を窄まりへ押し付けながら耳元で囁いてやる。
「ムリ、………出来な……ぁ、はぁ…ん………あぁっ……。」
強張った身体を宥めるように背骨に沿ってキスを落とす。ここも透真のイイ所だ。猫のように背をしならせ、甘い声を上げた所で中指を根元まで一気に押し込んだ。
「そう…そのまま……。」
円を描くように透真のナカにジェルを塗り込める。透真の熱で直ぐに柔らかく溶けて、動きがスムーズになってきた所で、もう一本の指を潜り込ませる。奥への道筋をつけるように角度を変えながら抜き差しすると、ぐちゅりと濡れた音が立つ。透真は膝を立てている事さえ出来なくなったのか、段々と蹲るような体勢になる。
「……ふ、ぁ……っう、………ア…っ……。」
「俺の指でそんな感じてくれてんの…?………すっげー、うれしい…。」
ジェルを満遍なく行き渡らせてからゆっくりと指を引き抜いて、さっきジェルと一緒にバッグから取り出していたゴムを手早く着けて、透真の身体を仰向けにする。
 目を閉じ、乱れた呼吸を繰り返す透真の頬にそっと手を添える。優しく頬を撫でながら小さな声で名前を呼ぶと、透真はゆっくりと目を開けた。

 視線が絡まる。ただそれだけの一瞬で、俺の心臓がどくりと大きく鳴った。
「好きだ…。」
口をついて出たのはたった三文字の言葉。でもそれは、心の底から自然と湧き上がってきた気持ち。額を突き合わせて、見つめたまま腰を寄せていく。片脚を腕で掬い上げ、透真とゆっくりと一つになる。
 浅い呼吸に合わせるようにじりじりと腰を進めていくと、その感触に小さく声を上げながら俺の腕をぎゅっと掴んでくる。
「お前、ほんと可愛いな……。」
眉根を寄せて、必死に俺を受け入れる透真は一瞬目を大きく見開くと、俺の首に縋りつき、顔を隠してしまった。そういう仕草も可愛いんだよ。心の中で呟いて、こめかみにキスを落とした。
 全てをおさめきって、大きく息を吐いた。まだ身体を強張らせている透真の髪を優しく梳く。赤くなっている耳が可愛くて、そっと唇を寄せる。荒くなった息を隠さずに吐息と共に耳に流し込む。
「耳まで真っ赤だ。」
唇で柔らかく耳朶を食み、耳の形をなぞるように舌を這わす。しがみ付いていた腕の力が緩むと、きつく締めあげていただけだったトコロも柔らかく解けてくる。深く繋がったまま、小さく腰を揺すると堪え切れない様子で甘い鳴き声を零す透真の顔が見たくて、少しだけ上体を起こした。
 目を瞑って俺を受け入れている透真は、まるで全てを俺に委ねてくれているようで愛しくて堪らない。
 下肢に手を伸ばし、透真のモノを手の平で包み込み、蜜を零している先端を親指の腹で擦る。柔らかい刺激に薄く開いた唇から吐息を漏らし、顎を仰け反らせる。腰は緩く動かすにとどめて、手の動きだけを段々と早くしていく。
「がくっ、……や…ん、んっ………。」
「いやじゃないだろ…透真がイイと、俺も気持ちいい……っ…。」
促すように握り込んだモノを強く扱いてやると、透真のナカもそれに合わせて絡みついてくる。
「…は…ぁ、…っ…あ、ぅ…ん、ああぁァッ…………ふ……。」
枕に頭を押し付けるように背を反らして透真は果てた。弛緩した身体はシーツに沈んだが、まだ残る余韻に下腹をひくつかせる。その度に俺を咥え込んだままのトコロも吸い付くように収縮する。その感触をじっくり堪能して、俺はゆっくりと腰を引いた。
 透真の横に寝転び、まだ熱い身体を抱き寄せると、透真の手がおずおずと俺の背中に回った。甘えるように胸に額を擦り寄せてくる。
「…………お前……イッてないじゃん………。」
蚊の鳴くような微かなその声には、不安とも不満とも取れる響きが含まれていた。胸に顔を埋めた透真の顎を掬い上げると、潤んだ瞳で俺を睨み付けてくる。俺はその表情に思わず笑みを浮かべ、少し尖らせている唇に音を立ててキスをする。
「言ったろ?『今日は寝かせてやんねえ』って。」
しっとりと汗ばんだ背中を撫で、指先で肩甲骨をなぞる。
「…ぁ…バカっ……。」


 今日は一晩中、たっぷりと思い知らせてやる。
 俺がどれだけ透真を愛してるか、って事を。





 「……ん…。」
ぼんやりと目を開けると、薄いグレーの壁が流れていく景色が窓の外に見える。どうやら高速に乗っているみたいだ。
 昨日、というよりも今日の朝方まで言葉通り寝かせてもらえなかった。いつ寝たのか分からないまま眠りにつき、そして起こされて、寝起きではっきりしない頭と体を満足に動かす事も出来なかった俺は、学にされるがまま風呂に連れて行かれた。その後も体のだるさは無くならず、結局チェックアウトぎりぎりまで部屋で過ごす羽目になった。
 ぎくしゃくした動きで旅館をあとにして、車に乗り込んでからもだるさは取れず、助手席のシートにもたれて直ぐに俺はまどろんでしまっていたらしい。

 もぞもぞと体を動かすと、「起きたのか?」と控えめに声を掛けられた。
「…うん………。」
小さく返事をしたものの、目線はダッシュボードに釘付けだ。まともに学の顔を見る事が出来ない。何だか初めての時のようで、気恥かしいものがある。
勢いに任せてあんな事をしてしまって、どんな顔をすればいいのか分からない。どこかのFM局らしいカーラジオが低く流れているから、沈黙もそこまで気にならないけど、黙っているのも気まずい、というか気が引ける。よくよく考えれば、学だって大して寝ていないのに運転しなきゃいけなくて、その隣に座っているだけでいい俺は眠りこけてた訳で。
「………あの、さ……。」
会話の糸口を見出そうと言葉を発してみたものの、何を続ければいいのか分からない。しかも微妙に声が出しづらい事に気付く。
 昨日の……アレだ。学の背中にしがみ付きながら、何を口走っていたかはほとんど覚えていない。でも、散々声を上げていた事は記憶に残っている。にわかに頬が熱くなってきて、結局俺は口を噤んで、俯いてしまった。
「まだ寝ててもいいんだぞ。」
「もうへーき。」
学の気遣いがくすぐったくて、素っ気なく言葉を返す。「ごめん」も「ありがとう」も素直に言えない自分が嫌になるが、どうしようも無い。俯いたまま、唇を噛む事しか出来ない。
「そうか。じゃあ、もう少し行った所にサービスエリアがあるから、そこでちょっと休憩入れるか。」
俺の態度を意に介した風もなく学はそう告げると、再び沈黙が訪れ、車内はカーラジオと微かなエンジンの音に包まれた。

 10分程車を走らせ、緩いカーブを曲がって車が減速する。パーキングエリアに入ると、カーナビの画面がバックモニターに切り替わる。気まずさで学の顔も見られず、俺は黙ったままでモニターを見つめていた。ギアをRからPへ入れる学の手を視線の端で捉えて、俺はシートベルトに手を掛けた。すると、学がいきなり顔を寄せてきた。
「…………っ………。」
一瞬、何が起こったのか分からなかった。気が付いたらキス、されていた。俺は慌てて学の肩を押しやる。そんな俺を尻目に、学はさも満足そうに笑っている。ぶわっと一気に顔が熱くなった。
「い、いきなり何すんだっ!!」
「お前があんまり可愛いから、キスしたいの、運転しながらずっと我慢してたんだ。」
悪びれる様子もなく、学は平然と口にした。
「……っざけんなっ!バカか、てめえはっ!!!」
「そんだけ元気なら大丈夫だな。よしよし。」
ぶっ叩いてやろうと振り上げた手は難なく受け止められて、あやすような口調で言われて、尚更腹が立つ。さも楽しそうな学を睨みつけてやる。
「そんな顔されると、もっとキスしたくなっちまう。」
急に甘い声で言われて、俺は焦って手を振り払い、早々に車を出る。
 顔の火照りを冷ますように足を速めていく。誰が見てるか分からないこんな所で、いきなりあんな事するなんて、あいつは馬鹿だ、絶対。



 車のロックを確認してから、透真を目で追う。肩をいからせてずんずんと歩いていく透真の後ろ姿に、思わず笑みがこぼれた。
「馬鹿は馬鹿でも、俺は『透真バカ』だけどな。」
独り言を呟いて、足早に透真のあとを追った。


 偶には二人だけで、こんな風に甘い時間を過ごすのもいいだろう?なあ、透真。

 


 思ったよりも長くなってしまいました。というのも、今回、学目線からのエッチを書きたくて何だか悪戦苦闘してしまった次第。攻め目線で書くと、説明的になりがちな事に気付いて、そうなり過ぎないように頑張ってみたつもり…。
 途中で透真目線に切り替えようとも思いましたが、学の心情も書きたくて、なんとか仕上げました。
(back ground:『うさぎの青ガラス』様)


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