Novel




仮面の下の遊戯 3





 柔らかく何度か踏み付けてやると先走りで俺の足が滑ってくる。それを塗り広めるように足の裏で擦ってやると、俺のモノを銜えたままで先生が呻く。喉の奥が震える、その振動が伝わってきて気持ちがいい。
「…いいぜ……もっと啼け。」
爪先で先端を突いてやったり、足の指で挟んで引っ張ってやると先生はもじもじと腰を揺らし出した。俺はそれを見て、もっと責めてやりたくなる。
「もっと痛いのがいいのか。」
徐々に力を込めてぐりぐりと煙草の火を揉み消すように踏みにじっていたぶってやると、先生は目尻に涙を溜めて唇を震わせた。
「ふ、んんっっ…ぅ、ン……んんむッッ……。」
その刺激に耐えられなかったのか、先生は腰を突き出して射精した。俺のを銜えたままだった先生の髪を掴んで俺から引き剥がした。先生は痛みに喘いだが、達した余韻の残る甘いものだ。潤んだ瞳で俺を見上げている。先生を解放してやり、再び俺は脚を組み直した。

「アンタのやらしい汁で汚れちまったじゃねえか。」
精液で濡れた足を先生の目の前に見せつけるようにかざしてやると、頬を染めて恥ずかしがる。
「嘗めて綺麗にしろ。」
命令口調で告げてやると、
「はい、綺麗にします………ふ…んッ…。」
先生は従順に俺の足に付いた自分の精液を嘗め取り始めた。さっきよりも丁寧に指一本一本を口に含み、舌を絡めていく。自分の放ったものを自らの口で清めていく、そんな被虐的な行為に没頭する先生の姿に俺の加虐心が疼く。でも先生だって俺と同類だ。
「何だよ。自分のザーメン嘗めてまた勃起させてんのかよ。」
裸のまま隠す事が出来ないでいる股間のモノがまた膨らみ始めているのを指摘してやると、先生は目尻を朱に染めながら目を伏せた。
 綺麗になったのを見計らって、先生の顔を足の裏で押しやってから俺は立ち上がった。その拍子に先生は這い蹲るように床に横たわった。それを横目に見ながらさっき話をしていた事務机の抽斗を開け、ある物を取り出した。それを手にして、まだ床の上から俺をぼんやりと見上げている先生の肩口を蹴飛ばした。
「いつまで寝てんだ。ほら、そっちに座れ。」
一人掛けのソファへ行くようにけしかけると、先生は四つん這いでのろのろとそれに近付き、俺の様子を伺いながら座った。俺は目の前の応接セットのローテーブルに腰を下ろした。



 「肘掛に脚を乗せろ。」
私に命令する高圧的な声。私は従うのみ。両足を大きく開いて、言われた通りに脚を掛けると彼の前で全てを晒す格好になる。恥ずかしくて仕方が無いのに、彼に見られているという事実が私を更に昂らせる。
「さっき、俺がいいって言ってないのに勝手にイったよな?お仕置きが必要だよなぁ?」
わざとらしく私に問い掛けてくる。
「はい……お仕置き、して下さい…。」
自ら望んでこの身を差し出すかのような台詞をか細い声で口にした。きっと期待と不安と欲にまみれた顔をしている事だろう。私がこう答えると分かっていて、彼は敢えてそうするのだ。彼とのやり取りには予定調和しか存在しない。彼と私の関係はそういうもので成り立っているのだから。

 彼は再び立ち上がると、私の座るソファに乗り上げて見下ろしてくる。思わずごくりと喉を鳴らしてしまい、お仕置きを心待ちにしていると彼に知られてしまっている事だろう。
「たっぷりお仕置きしてやるよ…。」
彼はさも楽しそうに笑みを浮かべると、私の目の前に何かを翳した。それはプリントをまとめる際に使う、小さな目玉クリップだった。私はそれを見てこれから何をされるのか気付いてしまい、想像しただけで身体が熱くなる。彼は見せ付けるようにゆっくりとそれを私の胸に近付けて、尖り切った乳首を弾く。
「何だよ、弄ってやらなくてもこんなに尖らせて。」
そう言うと彼はクリップで私の乳首を挟んだ。痛みに身体を震わせていると容赦の無い彼の手は、クリップをぎゅっと引っ張り上げた。
「…ひ、ぃっっ……。」
新たに走った鋭い痛みに身体を仰け反らした。胸を突き出すような姿勢になる。
「こっちにも欲しいか?」
彼はもう片方の乳首にも手を伸ばしてきた。爪で引っ掻かれ、親指と人差し指で摘まれ、ぐりぐりと押し潰される。
「痛ッ………ひっ、ん…。」
情けない声を上げて、彼のお仕置きを甘受する。痛みと共に身体中を沸き立たせる快感が襲ってくる。あられもない声を上げながら身を捩る。
「こんなに悦んでるんじゃ、お仕置きにならねえな。」
彼はそう言うと私の性器を指で弾いた。その刺激にどろりと先端から先走りが溢れる。私の身体は欲望を吐き出したいと訴え始めていたのだが、彼はそれを許してはくれなかった。綴じ紐で根元を縛られ、射精を制限される。
「あ、やっ……。」
「いやじゃねえよ。アンタが我慢出来ないからこうしてやったんだろ。」
彼は感謝しろとでも言いたげな口調で言い放った。
「こんな濡らして、女のアソコみたいにぐしょぐしょだ。」
嘲る様に言われて私は顔を背けたが、彼の視線を身体中に感じる。まるで視線自体が熱を持っている様で、身体の奥に潜む欲望が疼くのだ。



 俺に揶揄されて先生の一番弱い部分が息づくように訴えている。指の腹で先走りを後ろに塗り付けてやると、甘えた声を上げながら腰を突き出してくる。それに合わせて中指を一気に突き立てる。間を置かずに内壁を擦るように出し入れしてやると、足の指を突っ張らせながら身悶える。
「…ぅ、や……ァあん…んッ、ああっ……。」
切なげな声を上げながら身体を震わせている先生をもっと乱れさせたい。そんな欲望が沸々と湧いてきて、俺は指を更に増やし内を抉ってやる。太腿を痙攣させて身体を仰け反らせている先生の乳首を未だ飾っているクリップを引っ張った。
「い…やっ……ダメ、ひぃッッ……っ…。」
思い切り俺の指を食い閉めてきた。きっとドライで達ったんだろう。
「あーあ、射精しないでケツだけでイっちまって。」
指を引き抜き、クリップを外してやると鼻に掛かった甘い声を漏らした。クリップを外した事で一気にそこに血が集まってきたのだろう。達したばかりの身体はどんな事でも刺激になるはずだ。先生は俯いて必死に声を殺そうと唇を噛む。
「ここ、どんな感じがする?」
触れるか触れないかの微妙なタッチで紅く膨れている乳首を撫でてやる。
「ァ……じんじん、してま…す。」
「ジンジンしてて、気持ちいいのか?そうだよなぁ、前も勃ったまんまだし、ケツもヒクつかせてるし。全部丸見えだ。」
わざと辱める言葉を選び、先生を煽る。こうした時の先生の恥ずかしがる表情が好きだ。恥ずかしがりながらも自分の欲に溺れていく先生がいい。
「私の…はしたないお尻に、あなたの…っ……その、ペニスで罰を与えて下さぃ…。お願い、ですっ…どうか……。」
羞恥に体を震わせて涙を流して、それでも淫らな台詞を口にする。普段の先生からは誰も想像出来ないだろう姿。俺しか知らない、被虐に悦ぶ先生の裏の顔。
「自分で欲しいとこ、もっとちゃんと見せてみな。俺に犯して欲しいんだろう?」
早く突き立ててやりたいと思いながらも、先生にもっと欲しがらせたくて吐き捨てるように言い放った。先生は自ら膝を抱えて、更に腰を突き出してくる。
「…っ……犯して…私を壊して、くださいっ…。」
俯いた先生の頬を両手で包み込み、自分の方に向かせると、潤んだ瞳をゆっくりと俺に向ける。



 「…っ、あんっ……はぅっっ、んァ…。」
乱暴に貫かれる度に声を上げてしまうのを抑えられない。射精を塞き止められ、解放出来ない熱がどんどん身体に篭っていく。延々と続く絶頂感に自分がどうなっているのかさえ判別がつかなくなる。
「すっげ、締め付け…っ……。そんなにイイのかよ…。」
「ァ、あ…いいです、すごっ……ふ、ぁあっ……。」
肉と肉が絡み合う感触。激しく揺さぶられると、脳まで犯されている様だ。許容を超えた快楽に身も心も溺れさせられ、閉じる事が出来なくなった口許から涎が伝っていく。

 彼がふいに律動を止めて、私をひたと見つめてきた。焦れた私は彼の目を見つめ返して問い掛ける。
「…ど……ぉして…っ、ぁ………。」
見下ろしてくる、冷たさも熱さも孕んだ彼の鋭い瞳。彼は視線を合わせたまま私の唇を親指の腹でそっとなぞる。
「もっと俺を欲しがれ。この口でいやらしくねだってみな。そしたら、アンタもイかせてやるよ…。」
「………あなたが、欲し……私の中に、っ…あなたの精液を…注いで下さ…ぃ…。」
浅ましく彼を求めてしまう。私の全てを彼のものにして欲しいと淫らな言葉で彼を誘う。彼の前でだけは私の全てを曝け出せる。彼にだけは私の全てを知って欲しいのだ。
「………いいぜ…。」
彼は一度、目を眇めると口端に笑みを浮かべてから律動を再開した。
 身体中に渦巻く熱に翻弄され、目の前の彼の身体に必死にしがみ付く。彼は私の腰を痛みを感じる程強く掴んで、抽挿を繰り返す。
「あ、あぁっ……んぅ…も、ぅ……はっ…欲し…っ、出してっ……。」
「…アンタも達かせてやるから、ッ…思いっきり、締め付けろよっっ……。」
性器を戒められていた綴じ紐を解かれ、最奥を突かれる。
「…んんぁっ……ひ、ぃっっ…は、ぁああっ……ふ…ゥ……っ…。」
脊髄を這い上がる悦楽が私の頭を真っ白にした瞬間、私は下半身を震わせて彼の肉を絞り上げた。その直ぐ後に彼の迸りを身体の奥底で感じながら、私は至上の歓びを味わっていた。




 身支度を整えながら、徐々に日常を取り戻していく。まるで白昼夢を見ていた様だ。緩慢な動作でシャツの釦を留めていく。足腰はまだ立たないから、先程のソファに腰を下ろしたままだ。いつもなら彼は私がこうしている間に部屋を去っていく。私を一瞥し、折り目正しく礼をして。
 この部屋にやって来た時とまるで変わらない彼の制服を着込んだ、凛とした背中をぼんやりと見つめる。そして、情事の後にいつも襲ってくる焦燥感。教師の身でありながら、教え子と、しかも同性である男子生徒とふしだらな関係を結んでしまっている事。私の立場であれば、彼を正しい方向へ導くべきである事も自覚しているのだ。
 それだけでは無い。歳若い彼の世界はこれからまだまだ変化し、広がっていく。それを知る度に彼はさぞ魅力的な大人の男へと変貌を遂げていく事だろう。
 そう、私は怖いのだ。彼が私に関係に執着するのは高校生活を送る間だけで、いずれは旅立ってしまう。そうなればこの爛れた関係も自然と消え去るはずだ。
 そうでなければならないと思うのと同じ位に、そうなって欲しく無いと願ってしまうのを止められない。相反する思いは日を重ねるごと、身体を重ねるごとに大きく、深くなっていく。矛盾した気持ちを抱えて私は彼の存在に強く依存している事を思い知らされる。彼は自ら相手を選べる。しかし私はそうでは無い。
 ……彼が私に飽きてしまったら、彼が居なくなったら、私はどうしたらいい。



 人一倍常識的で保守的な先生は苦悩している。俺達の関係にひどく負い目を感じている事に俺は気付いている。
 でも、こうして思い悩む先生を知る度に心が満たされる。もっと俺を欲しがって、俺無しでは生きていけない様にしてやりたい。俺という存在を刻み付けて、絶対忘れられない様にしてやりたい。俺以外の人間に素顔を晒す事は許せない。俺だけが知っていればいいんだ。
 俺がそれ程までに独占欲を覚えている事を先生はきっと分かっていない。
 だったら、分からせてやるまでだ。
 振り向くと先生は戸惑う様に視線を泳がせているが、俺はかまわずに先生に近付いていく。
 無言のまま先生の顎を掴み、無理矢理上を向かせた。困惑した顔。眉根を微かに寄せて、不安そうな目で俺を見上げている。
 ゆっくりと顔を近づけ、唇を合わせた。先生は一瞬体を硬くしたが、柔らかく食んでやると緊張を解いた。角度を変えながら何度もキスをする。唇に舌を這わすと、薄く口を開いた。そこに舌を差し込み、咥内を掻き回してやると先生はおずおずと俺の腕に手を伸ばし、そっと触れてきた。
 俺は目の前の体を抱き締めて、更に深く唇を重ねる。鼻に掛かった甘い声を上げながら、先生も俺に縋る様に背中に腕を回す。舌を絡め取り、吸い上げて俺の唾液を送り込む様に口付けを交わす。充分に唇を貪ってから解放すると、先生はさっきよりも不安の色を濃くした瞳を潤ませて、俺を見つめてきた。
 その目を見下ろしながら、俺は先生を縛る言葉を投げ掛ける。
「…一生、俺のモノだ……覚悟しておけ、由紀哉…。」




 私はこうして彼に呪縛を掛けられた。
 そして、今も……。
「さあ、今日はどうして欲しい?」
「あなたのお好きな様にして下さい…。」






耽美SM系。純文学も好きなジャンルなので、少しですが取り入れてみました。私の萌え要素を存分に盛り込んでおります(笑)。
年下攻め、SM、耽美、愛ある鬼畜、ギャップ…あげたらキリが無いですね。
(back ground:『Mako's』様)


気に入って下さったら、是非ポチっとお願いします。






Novel TOPに戻る