緋薔薇の寝室 2




 緋色の薔薇を活けた花瓶を抱えて、美果様の寝室に向かう。外はとっくに夜の帳が訪れている。
 淡い灯りの中、胸に抱いた薔薇を見やる。美果様が選んだ緋色の薔薇。花言葉は、「情事」……。その余りにも直接的な意味を持つこの薔薇をこうして自らの手で美果様の寝室へと届ける事に、胸が騒ぐ。昼間の行為を思い出してしまい、知らず頬が染まる。ただ指の傷を舐められただけ、といえばそれまでだ。確かに小さい頃には、怪我をすると母があんな風にしてくれた事があった。優しい笑顔で早く治るおまじないだと言われれば、不思議と痛みも和らいだような記憶がある。決して官能を引き出すような行為では無いはずなのに、美果様にそうされた時は違っていた。鼓動が早くなり、身体が熱くなった。

 息を整えるように、扉の前で深呼吸をする。動揺を気取られないように…。扉を軽く叩いて返事を待っていたら、直ぐに扉が開いた。どうぞ、と促されて花瓶を抱えたまま寝室へと入った。
「あの…これはどこに飾りましょうか?」
目を合わすのが何となく気まずくて薔薇を見たままで尋ねてみる。
「では、こちらにしましょう。」
美果様は寝台の枕元近くにある小さな円卓を指し示した。分かりました、と返事をして慎重に運んでそっと花瓶を置くと、ことりと小さな音が立った。
 ほっと一息ついた所で、急に腕を掴まれたかと思ったらあっという間に寝台に押し倒されてしまった。驚いて目を見張って上から覗き込んでくる美果様の顔を凝視する。

 「緋薔薇の花言葉……蒼太は知っていますか?」
意味有り気に囁かれた台詞に一度落ち着いた心臓が跳ねる。美果様の視線から逃れようと顔を逸らした所で、赤くなっているであろう頬を隠す事は出来ない。言葉で返事をしていなくても、これでは身体で伝えてしまっているようなものだ。
「知っているのでしょう?」
耳へ吹き込まれる甘い声。尋ねる口調ではあるけれども、それは明らかに確信犯めいた響きがあった。美果様は全て承知の上で俺に聞いているのだ。全て見抜かれている。
「…っ……はい……。」
俺は恥ずかしさで躊躇いながらも小さな声で返事をした。美果様がくすりと低く笑った気配がして、その空気の振動にも俺の身体は反応して震えてしまう。熱くなっていく身体を抑えられない。
「花言葉は『情事』……蒼太はどんな事を思い出していたのでしょうね…。」
ふいに手を取られ、人差し指の先にそっと唇が触れる。薔薇の棘で負った傷のある指先。昼間の温室での出来事を思い起こさせる仕草にますます心拍数が上がる。既に塞がりかけていた傷に優しく歯を立てられた。痺れるような痛みがそこから身体中に広がっていき、疼きへと変わっていく。

 耳元近くで濡れた音がして、間近で指先を含まれ、舐め上げられていると聴覚が伝えてくる。生々しい舌の感触に理性を溶かされていくようだ。
「はっ…んあっ……。」
まるで急所を愛撫されているようで、思わず甘い声が漏れた。その様子を感じ取ったのか、美果様は執拗に指先に舌を這わせ、吸い上げる。
「美果様っ……もう…。」
指先への愛撫だけで感じ入ってしまった俺は、この先にあるもっと強く激しい快楽が欲しくて強請るような目を美果様に向けてしまう。
「そんな潤んだ瞳をして……食べてしまいたい位可愛らしいですね…。」
美果様はそんな不穏な台詞を呟いて、やっと俺の指を解放して、額に、頬に、唇にと軽く口付けを落としてくる。俺はその心地良さに目を閉じて柔らかい口付けを享受する。目尻へと唇を落とされた時だった。閉じた瞼の上をぞろりと舐め上げられ、そのまま生温かい舌が閉じた瞼を押し開くように入ってきた。
「ひっ……。」
初めて味わう感触に引き攣ったような声が口をつく。眼球を舐められていると認識して、恐怖で身体を動かす事も出来ず、されるがままになってしまう。
「ぁ、あ……んっ…はぁ……。」
しかし、次第に恐怖とは別の感情が生まれていた。今まで味わった事のない性感が刺激される。美果様から与えられる刺激は全てが悦楽へと変わってしまうのだ。俺は美果様の頭を抱え込むようにして、眼球への愛撫を受け入れていた。零れる声は明らかに快楽に濡れたものでしかなくなっていく。
「………気に入ったのですか?」
美果様はたっぷりと味わうように俺の瞳を舐め尽してから唇を離すと、熱い吐息とともに耳元で囁いた。
「ほら…もうこんなに濡らして……。」
「あっっ…。」
夜着用の浴衣の合わせから進入してきた手は俺の下穿きをすでにしとどに濡らしている屹立を撫で上げた。思わず高い嬌声を上げてしまう。直接触られないもどかしい感覚に焦らされて、どんどんと溢れる先走りが更に下穿きの染みを広げていくのが分かる。あまりに浅ましい反応をする自分が恥ずかしくて、そこを隠すように膝を閉じた。すると合わせた膝から美果様は俺の下穿きをするりと抜き取った。
「隠しては駄目ですよ…脚を開きなさい。そう、もっと……。」
命令されて、俺はおずおずと合わせた膝を開いていく。俺を見つめる熱い目線にさらされて、身体が跳ねて先走りの雫が幹を伝って零れ落ちていった。

 「まるで中から溢れてきているようですね…蒼太のここは。」
「ぁうっ……っ…。」
美果様の指が俺の秘所に触れて、抗えない衝動に声が漏れてしまう。この先にある快楽を教えられてしまっている俺の身体は、そこに触れられただけでぞくりと背筋に悦楽が走る。爪の先だけを食い込ませながら、覆い被さる様に身体を重ねてくる。その刺激でひくりと秘所が収縮する。まるで指を呑み込もうとしているような淫らな自分に羞恥を覚えて顔を背けたところ、今度は耳への愛撫が施される。舌先が耳の中を舐め上げる卑猥な音が響く。それと同時に秘所へと指が侵入し、引き攣れるような小さな痛みを与えてくる。
「…や、ふぁ……。」
敷布を握り締め、襲い来る痛みと悦楽の波に耐えるけれども、ぐるりと内壁を掻き回されて一際高い声を上げてしまった。
「その内、私を思っただけでここも濡れるようになるでしょうね…。」
そんな言葉を耳元へ囁きながら、俺の先走りを掬い取るようにして内に埋める指を増やし、性急に出し入れしてくる。俺はじっとしている事が出来ずに、まるで誘うように腰を揺らめかしてしまう。もっと欲しくて、もっと……。

 「みか、さまっっ…も、欲しっ……です…挿れて、くださ…ぃ…っ………。」
必死に目の前の美果様に腕を伸ばし、抱き締める。密着した事で濡れそぼった性器が美果様の下腹辺りに当たり、それを擦り付ける様にしてしまう。まるで発情した犬のようだ。でももう、恥ずかしいとか、情けないとかそんな事を考えている余裕などどこにも無かった。
「自分からそんなに腰を寄せて…もう我慢出来ないのですか?」
笑いを含んだ声音で告げられて、堪らなくなる。
「ごめん、なさ……ごめ……なさぃ……。」
羞恥に涙を零し、許しを請う。美果様は瞳を眇めてそんな俺を見やると、
「もっと可愛い泣き顔を見せてご覧…。」
そう言って俺の秘所へと熱い屹立を押し当てた。
「あっ…美果さま…好き、です……すき……。」
うわ言のように呟くと、美果様は誰をも虜にするであろう極上の笑みを寄越して、一気に俺の内へと突き立てた。
「ひっ、ぁ…んっ……ああっ…ぅ……。」
奥を突かれる度に声が漏れてしまう。激しい律動に揺さぶられ、閉じられない口の端からは唾液が頬を伝い落ちる。
「…っ…私も好き、ですよ……蒼太…。」
指が食い込む程に強く腰を掴まれ、内を穿たれる。力強い抽挿に翻弄されるままに絶頂を迎える。
「…んぁ…あ、ああぁっ…。」
性器に触れられずに達した絶頂は、尾を引くように長く、身体が小刻みに震えるのを止められない。それでも美果様はまだ、俺の内で確りとその存在を主張している。

 「………まだ、ですよ…もっと欲しいでしょう?」
更に腰を高く持ち上げられ、より深く美果様が入ってきた事で俺の内壁はまるで悦ぶように食い閉める。その反応に口端を歪める様にして微笑んだ美果様は、ぞっとする程美しかった。
「も、もっと………して下さ……みかさ…美果さまぁ…。」
虚ろな目で訴える俺にはもう、何も考えられなかった。




 閉じた瞼に感じる光に薄っすらと目を開ける。
「お早う御座います、蒼太。」
甘い声が聞こえると同時に、額に柔らかな感触がした。寝ぼけ眼で少し顔を仰のかせると、にっこりと微笑む美果様と目が合った。
「…目元が赤いですね。」
指摘されて、頬が赤らむのを感じる。昨日、愛されながらまるで子供のように泣きじゃくった記憶が甦る。恥ずかしさに美果様の腕の中から逃げ出そうと試みるが、それは叶わなかった。後頭を大きな掌で支えられ、唇を塞がれた。
「んっ……ふ、ぅ………。」
それだけで抗う気力は奪われて、されるがままになってしまう。たっぷりと時間を掛けて俺を口付けだけで酔わせると、やっとの事で唇が離れていく。
「もう少し、眠りなさい。私もまだ蒼太とこうしていたい…。」
抱き締められて、小さな声で囁かれた。幸せな温もりに包まれて、俺はまた眠りへと誘われていった。




 私としては、眼球舐めるのもラヴのうち、なんですが皆様がどう思われるのか…。気になる所です。
 緋薔薇の花言葉、決して捏造ではありませんよ。某花言葉のサイトで見つけたものです。そして、一所懸命緋薔薇の背景を探してしまいました。
(back ground:『Mako's』様)


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