Novel




偽悪者な執事 1





 私の主であるウィリアム様は、クロフォード家の三男として生を受け、優しいご両親、年の離れた兄上様達に可愛がられて育った。純粋で無垢で、明るく活発だ。それでいてやはり、良家の嫡子としての気品も持ち合わせ、英国貴族としての将来に何の心配もいらないような方。
 汚点と云えば、唯一、私のような人間を執事に持ってしまった事なのではないだろうか。私の家は代々クロフォード家に仕える家柄で、私もそれに倣い、ウィリアム様の世話係兼執事として幼い時から共に生きてきた。その事に何の不満も無く、むしろ光栄でさえあった私だったが、今は少しの優越感と大いなる罪悪感を持ちながらも離れられずにいるのだ。
 そう、私は卑怯でずるい、ただの男だ。




 「御仕度、宜しいでしょうか。」
夜着を用意し、声を掛ける。毎夜繰り返される常の事。
「ああ。」
裸の肩にガウンを掛ければ、首筋から先日教えたばかりのパフュームがほのかに香る。紳士の嗜みの一つだと教えたのは自分好みの香り。執事の特権とばかりにその芳香にしばし酔いしれる。


 ふと気が付いた。ウィリアム様の後ろに立った時、わずかながらも見上げるようになった背。今夏からパブリックハイスクールへと通い出した少年の成長は早い。羽化する寸前の美しい時期。愛おしさが募る。
 「アスラン。お前は…その……。」
突然発せられた言葉。いつもと違い、歯切れの良くない物言いを不思議に思いつつも次の言葉を待ちながら、ガウンの紐を下腹の辺りで緩く結ぶ。どうぞ、と終わりの合図になっている言葉を紡げば、キングサイズのベッドへと腰を下ろし、視線を泳がせている。私に聞きにくい事など、そうそうは無いはずなのだが。
「どうされました?坊ちゃんらしくないですね。」
口元に微笑を浮かべながら、ウィリアム様の足元へ膝をつき、臣下の礼を尽くすように下方から伺いをたてる。少し困った様子でいるその姿も私から見れば、まだあどけなく、微笑ましい心持ちになる。意を決したように私の目を捉えて言った。
「お前は女性と経験があるだろう?」
頬を赤らめながらも真剣な面持ちで告げられたのはそんな台詞で。それで合点がいった。きっと学友にそういった話題を振られたのだろう。今までは貴族や政治家の令息、令嬢が集まるプライベートスクールに通われていて、そういう話はタブーのように語られなかったはずだ。興味を持って当たり前の年頃だ。兄上様達ともかなり年が離れているせいもあり、話題に上る事も無かったのだろう。
「ええ。人並みには。」
悪いとは思いながらも、思わず笑みが零れてしまった。あまりにも可愛らしくて。私はといえば、こんな純粋な10代を過ごした記憶は無い。女性ともそれなりに遊んでいたし、ここ最近は専ら男が相手だ。自分よりも年若い少年、青年にウィリアム様の姿を思い描いて。一生遂げられるはずの無い思いに気付いた時には既に遅く、慈愛だけでは済まされなくなっていた。肉欲などとうてい捨て去る事は出来ない、とんだ俗物だ。
 私の反応に気を悪くしたのか、顔を赤らめたまま私を睨み付けてくる。
「好きな女性でも出来ましたか?」
自虐的な言葉を吐いて、予防線をはる。いつかは必ず家柄の良い慎ましやかな女性と結ばれ、家庭を築く方だから。いつも自分に言い聞かせている事だ。
 覗きこんでいた顔は更に赤くなった。言葉を返されずとも分かる反応。ずきりと心は痛んだが、私にはどうする事も出来なかった事。


 「そうですか…。」
膝の上へと手を添えて、するりと太腿から下肢へと手を伸ばす。私の最初で最後の夢を叶える位、神は見逃してくれるだろう。
「なにするっ…。」
「その方を思い出しただけでこんなにされているのですか?お辛いでしょう。」
下着の上から触れたペニスは既に硬く、熱を持っていた。手を添えたまま、顔を埋めるようにして唇で触れる。その刺激にびくりと反応を返す慣れない様が愛おしく、口で下着をずり下ろし、直に舌を這わせていく。
「…くっ…アスランっ……。」
「気持ちいいでしょう…?こうされるのは、お好きですか……ふっ…ぅん…。」

 口の中へすっぽりと銜え込むと、先走りと唾液で咥内がいっぱいになる。わざと音が立つように、頭を上下させ、歯を立てないように唇で扱いていく。
「…はぁっ……。」
吐息と共に零れる声。気持ち良さのあまりか、股間へと押し付けるようにして私の髪を掴んでいる。誘われるままにより深く銜え、舌を絡める。
「ぁ…やめ……はなせっ…。」
そう言って私の髪を後ろへと引っ張る。それに倣って、そこから口を離した。
「気持ち良くありませんでした…?」
口の端を伝う雫を指で掬い上げながら問う。達する寸前で硬直していた身体が弛緩していくのか、髪を掴んでいた手から力が緩んだ。
「そう、じゃない……もう、出そうだから…お前の、口に…。」
弛緩した身体をそのままベッドへと押し倒して、自らスラックスと下着を脱ぎ去って、腰の上に跨った。
「では…こちらなら……。」
先程の行為を思い出させるような仕草で自らの指に舌を這わせ、銜え込む。見下ろしているその顔は欲情を滲ませていて、私を堪らなくさせる。たっぷりと濡らした所で、アナルへと腕を伸ばした。
「…っは……ん…。」
指を掻き回し、解していく。ウィリアム様は私が何をしているか理解出来ていないのか、少し呆然とした様子で私を眺めている。
「こうして…貴方を迎え入れる、準備をしているのですよ…坊ちゃん……。」
ごくりと喉を鳴らして、私の様子を食い入るように見つめてくる。その視線に煽られて、指を銜えたアナルはひくりと収縮する。
「ぁっ…もう、大丈夫だと…。」
まだ確りと勃ち上がっているものをやんわりと握り、後ろへと導いてゆっくりと腰を下ろし、全てを収めた。内を掻き分け、穿たれる感覚に身震いする程の悦びを感じてしまう。
「ぅっ…ぁあっ……。」
初めて知る感触に酔いしれるように漏らされた声が私の鼓膜をも犯していく。私の身体でもっと快楽を感じて欲しくて、引き締まった腹へと手をつき、腰を上下させる。
「あっ…はぁ……もぅ、出るっ……。」
「…っ…いいですよ…ぁ……私の中で…達って下さい…。」
私の腰を掴み、運動に合わせるようにして腰を突き上げてくる。下腹に力を込めて肉を締め上げると、腰を掴んでいた手にぎゅっと力がこめられ、内に熱い飛沫を感じた。


 「…くっ…ぁ…は……ア…。」
私の内で果てたその姿を私は確りと目に焼き付けていた。荒い息遣い共に大きく上下する胸へ身体を預けてしまいたい欲望に苛まれながらも、腰を浮かしてウィリアム様の上から身体を起こそうとした。その途端、下から腕が伸びてきて、抱きすくめられたかと思うと、唇を奪われた。押しとどめようと胸に手をつくが、本心は違う。キスをされ、喜んでいる自分が理性を鈍らせて、思うように力が入らない。
「まだお前が、達ってないじゃないか…。」
唇を離し、紡がれたのはそんな言葉で。
「………私の事はかまわずに…。」
思わず返す言葉が遅れた。どきりとした。そんな事を気に掛けてもらうような行為ではなかった。私の方が一方的に仕掛けた事。

 「…僕もお前を気持ち良くさせたいんだ…。」
ぎゅっと抱き締められ、耳元で囁かれる。首筋から香る、スパイシーなパフュームと汗の混じった香りが私の思考を麻痺させる。
 気が付けば今度は下からウィリアム様の顔を見上げていた。柔らかいキスが額に、頬に、唇に落とされる。ウィリアム様が後々、後悔をするかもしれないと思いながらも、抗う事は出来なかった。
 優しい指先が私のシャツのボタンをはずしていき、そっと触れてきた。加減が分からないのか、まるで壊れ物を扱うかのように。愛情を込められているような愛撫に心が震える。
「ァっ………。」
既に尖っていた乳首を指の腹で捏ねられて、思わず声が漏れた。
「ここが、気持ちいいのか…。」
独り言のように呟いて、少し力を込めて捏ねられ、摘み上げられる。与えられる刺激に背を反らせ、もっととでもいう様に胸を突き出してしまう。
「…あ…もっと……強く、して…くださいっ…ぅあっ…。」
はしたない声でねだってしまう自分に嫌気がさす。それでも快楽に溺れ始めた身体を止める事は出来なかった。
「…こう、か?」
強く乳首を摘み上げられて堪らなくなる。快感でびくびくと身体は打ち震える。自分のペニスからも先走りが溢れ出し、下肢を汚していくのが分かった。