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偽悪者な執事 2





 「……もう一度、お前の中に……入りたい…。」
耳朶を食むようにして低く、小さな声で囁かれ、アナルがひくりと反応してしまう。
「さっきみたいに…指で慣らした方が、いいのか?」
「…はぁっ…ン…。」
ぐぷりと指を埋め込まれ、掻き回される。先程受け止めた精液がいやらしい水音を立てる。
「あぁ…もぅ……いいですから…ぁ………。」
浅ましく腰を浮かせて、欲しいとねだる。
「教えてくれよ…どうするのが感じるのか……なあ、アスラン…。」
指を引き抜き、また硬度を取り戻している熱いペニスがあてがわれる。私からの言葉を待っているのか、そのまま動こうとしない。そんなウィリアム様に焦れる。それでも、頭のどこか片隅に残っていた冷静さを取り戻す。あくまでこれは、ウィリアム様が好きな女性との夜をスマートに、紳士的に過ごす為の予行練習のようなもの。男の私にねだられた所で、気持ちがいいものではないはずだ。
「…ゆっくり…先だけを……ふっ…んん……そのまま、浅いところで…腰を揺らしてっ……ぁ…いいですよ…。」
私の言葉通りに腰を進める。私の顔をじっと見つめたままで。居た堪れなくなり、思わず視線をそらしてしまった。その途端、奥まで一気に穿たれた。
「ああぁっ…。」
「なんで、目を逸らすんだ…。」
挿入の衝撃で目を瞑っていたのをゆっくりと開けると、目の前にはウィリアム様の顔。少し怒ったかのように、眉根が寄せられている。赤い顔で恥ずかしそうに尋ねてきた時とは違った、少し大人びた表情に胸が高鳴る。
「…坊ちゃん………。」
「お前、少し上の空だろう。いつもみたいに、僕の事だけ見て、考えていろ。……僕は今、お前の事しか考えてない。」


 卑怯だ。こんな事を言われて、靡かないはずが無い。罪悪感も何もあったものじゃない。心も身体も、無我夢中にウィリアム様を求めてしまう。筋肉の張りが伝わってくる背中に、しがみつくように腕を回す。肩口に顔を埋めて噛み付くように叫んだ。
「いつでも、誰よりも…私が一番貴方の事、考えていますっっ。」
私の言葉を最後まで聞くか聞かないかでいきなり激しく律動を開始する。
「……っ…ぁっ…ン…。」
内を探るように角度を変えながら突かれる度に声が自然と漏れる。
「…うっ……どこが、いい?もっと奥か?…っぅ……。」
「ぁん…ぁ………ひあっっ…。」
奥のスポットを抉られて、内が収縮し、嬌声をあげてしまう。
「くぅっ…ここ、いいのか?…あ……僕もすごく、いいっ…ぁあ……。」
「…やぁっ…はっ……ああん…っ……。」
私の反応が違った事にきちんと気付いたらしく、執拗にそのスポットを攻め立ててくる。煽られて、乱れて、全身でウィリアム様を受け止める。幸せで胸が詰まり、涙が零れてしまいそうになる。しかし、目尻に溜まりだした雫はキスで拭われた。
「…っ……今度はお前も、いっしょに……く、はっ……ぁ………ああぁっっ…。」
「ア…もう、ダメですっ……ぃああっっっ………ぁ、ふ…。」
内で果てたウィリアム様を感じて、私も必死にしがみついたまま絶頂を迎えていた。




 「御仕度、宜しいでしょうか?」
いつものやり取り。無言のまま頷いて、背を向ける。肩にそっと掛けられるガウン。前に回ってきたアスランの頭は大分見下ろすようになった。こうして見れば、アスランは華奢な部類に入る男だ。抱き締めればすっぽりと腕におさまってしまう程に。

 僕の執事はとても気の付く、出来た執事だ。望むものもいつも先回りして、押し付けがましくなく僕に与えてくれる。それが当然の事とばかりに。いつでも側にいて、実際、親兄弟よりも長い時間を一緒に過ごしてきている。それなのに、一番肝心な所には気が付かない。こうなったら実力行使に出てやろうと腹を括ったんだ。
 ハイスクールを卒業してから、大学で経済の勉強をしながら家の持つ財閥傘下の企業の一つで仕事を始めさせてもらった。そんな風に仕事を始めてから6年が経った。
「お前に聞いて欲しい事があるんだ。」
僕に礼をし、立ち去ろうとしていたアスランに声を掛ける。
「どうされました?」
ベッドに腰掛けた僕の傍らに跪く。淀みの無い動作がいかにも執事という風。
「来期からゼネラルマネージャーになる事が決まった。」
「さすがは坊ちゃんです。おめでとう御座います。」
見上げてくる顔は微笑を湛えていた。
「それと、結婚しようかと思ってる。」
「…それは重ね重ね、おめでたい事ですね。」
一瞬俯いてから、再び向けられた笑顔は寸分違わぬ執事のそれ。
「お相手はウォーカー家のヴィヴィアン様ですか?子供時代から仲良くされてますものね。」
確かにヴィヴィアンは僕の幼馴染で、歳も近い。しかし彼女はあくまで友人であって、むしろ彼女は僕の意中の人物を知っている、それ程の間柄なのだ。
「いいや。でもお前もよく知ってるひとだ。」
こんな時でも平静を通すアスランに少し苛立ちも覚えるが、もう10年近くかわされてきた事だ。
「…どなたなのでしょう……私には見当も付きません。」

 もう誤魔化す事はさせない。誰よりも聡いくせに、僕の気持ちに気付く事は無かった。いや、気付く事を恐れてわざと避けていたんだろう。身体の関係を持った事も、それを続けてしまった事も全て自分の責任だと感じ、自分を悪者にする事で自分の気持ちを誤魔化そうとしていた。

 そう、僕の執事は偽悪者なんだ。
「僕と結婚してもらう。アスラン。」
一瞬何を言われたのか理解出来なかったらしく、呆然とした顔で僕を見つめていた。その姿に思わず笑みが零れた。
「………そのようなご冗談を…。」
少し固くなった、それでもまだ笑顔でそう告げてくるアスランが憎らしくて、愛おしい。二の腕を掴んでベッドへと引き擦り込む。
「お前とこういう事をしなきゃならない程、女性に苦労していると思っていたのか、お前は。」
失礼な話だ、と呟きながら唇へキスを落とす。この現実を受け入れられないとでもいうように目を見張ったままのアスランを抱きすくめる。
「言っておくが、僕はお前以外と関係を持った事は無いぞ。ずっと好きだったからな。」
耳元で告げればびくりと身体を震わせる。耳が弱いのはこれまでの経験で学習済みだ。
「……そんな…坊ちゃん………。」
「こんな時まで『坊ちゃん』は無いだろう?小さい頃のように『ウィル』と呼べばいい。それ以外は許さない。」
頬に両手を添えて、真っ直ぐに見つめる。その瞳は戸惑いに揺れている。
「いい加減、自分の気持ちを認めたらどうだ。僕と結婚しろ。」
「…坊ちゃんが良くても、ご家族が認められませんよ、こんな事……。」
必死に目線だけを逸らす姿がいじらしい。あくまで自分の気持ちは言わないつもりなのか。それも僕の為だという勘違いだ。この分らず屋な所も嫌という程理解しているし、この位で今更ひく程の浅い付き合いじゃない。
「僕の家族にも、お前の家族にも了承を得ている。さあ、もう逃げ道は無いぞ。お前はただ頷けばいいんだ。…愛している、アスラン。お前の答えは?」


 ここまで驚いたアスランの表情を初めて目にした。それから、こんなに可愛く見える仕草も。
「………敵いませんね、貴方には……ウィル…。」
小さく頷いて赤く染まった頬を隠す為にか、抱きついてきたアスランの身体を僕は確りと抱き締め返した。






友人リクエスト作品です。主人(年下)X執事(年上)という事で、名前まで付けてもらいまして。
もう少し調教というか、夜のテクニックを教える淫らな執事にしたかったのに、意外と乙女になっちゃいました。
(back ground:『NEO HIMEISM』様)


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