建前だけでは生きられない 4




 散々唇を貪られて解放された頃にはぐったりしていた。呼吸が上手く出来ない上に暴れたせいで、頭は霞がかったように思考が働かなくなっていた。
「気持ちよくなってきた?」
「ん…は、ァ……っ…。」
キスの合間にズボンもパンツも脱がされて、いつの間にやら手で扱かれている。直接的な刺激を与えられれば反応してしまうのが男というもので、彼の手の中で俺のモノは確りと勃っている。
「やめ…はな、せ………。」
彼の肩を押しやるように力を込めると、あっさりと彼はひいた。ひいた所までは良かったが…。
 「…あっ………んんっ…。」
有ろう事か、彼はそのまま下肢に顔を埋めて俺のモノを銜えた。思わず大きな声を出しそうになって自分の手で口を塞いだが、くぐもった声が漏れた。やばい、出そうな程気持ちいい。
「イキそうですか?……出しちゃっていいですよ…っ…。」
一旦口を放してそう告げると、彼は更に深く口に含んで吸い上げてきた。その刺激に耐えられず、彼の口の中に放ってしまった。強張った身体が一気に弛緩していく。
 圧し掛かってくる彼の体重を受けて、俺の身体ごとベッドに沈みこむ。
「俺、すげー興奮してます…。」
不穏な事を首筋で囁いて、ゴソゴソと彼は俺に乗っかったまま身動ぎをした。
「ほら、俺もこんな……。」
下半身が押し当てられて、直に彼の熱を感じる。恐怖に似た感情が沸き起こり、身を捩ったが力が入らずに彼の腕から逃れる事は出来なかった。
「やだ……やめて…くれ、こんな…。」
泣き言のように漏らした言葉は彼には届かないようだ。更に強く抱き締められて、ますます身動きがとれなくなる。
 もうやめて欲しい。只でさえみっともない醜態を晒したというのに。営業スマイルを欠かさない、大人な俺、というイメージとはかけ離れた情けない姿を。
「もっと見たい…もっと色んな竜成さんが、見たい……。」
そう言うと彼は俺の身体を抱き締めたまま、横向きに体勢を変えた。シャツの中に手を差し入れられ、触れられる。
 背筋をなぞられ、腰を撫で回され、その絶妙なタッチにぞくりと全身があわ立つ。身体が痙攣するように小さく揺れてしまう。すると、再び頭をもたげ始めている自分のモノを彼の太腿に擦り付けているような状態になる。彼もそれに合わせて俺の足の間に太腿を差し入れて、ゆっくりと揺らしてくる。

 「ね…もっとスゴい事、しちゃっていい?」
これ以上何をする気なのか。
 怖い。怖いけれども、心のどこかで彼に身も心も暴かれていくような感覚に全てを委ねたくなっている自分がいる。自分を解放出来る、唯一の手段だとでもいうように。
 彼の二の腕を掴んで身体を引き離そうと形ばかりの抵抗を試みる。
「…やだ……こわい…。」
口をついて出たのは本音の言葉。彼にされる事が怖いというよりも自分がどうなってしまうのか、それが怖かった。
 額にこつりと軽い感触。どうやら額同士を合わせるように、彼が額を押し当ててきたようだ。目を瞑っている俺の鼻先辺りに彼の息遣いを感じる。
「………やっと本音、聞けた気がする。」
彼の声は嬉しそうだ。本当に彼には全て見透かされている。
「素直になっちゃいなよ、俺の前だけでいいから。全部、受け止めてあげる……。」
そう告げてから背後でゴソゴソと手を蠢かしていたかと思うと、あらぬ所に指を這わせてきた。顔の前に無理矢理手を差し込んで彼との距離をかせごうと奮闘するも意味をなさない。結局、自分の顔を覆うように隠しているだけになってしまった。
「んっ、あっ……。」
ゆっくりと尻の狭間をなぞっていた指がじわじわと入り込んできて、その違和感に思わず声を上げてしまった。その間も彼は器用に太腿で前を刺激する事を忘れない。
「酒、入ってるせいかな……竜成さんの中、すっごい熱いですよ。」
左腕は確りと腰に回され、がっちりとホールドされた状態で彼は耳元に唇を寄せて低く囁いてくる。
「…気持ちいい?いいよね?俺の脚、竜成さんのでベトベト………。」
彼が囁く度に唇が耳たぶを掠める。彼の声にも、爽やかな外見からは想像もつかない卑猥な言葉も、彼の全てが熱をあおり、俺はどうしようもなくなる。
 塗り込められたものでヌルヌルと彼の指を受け入れている自分の体が溶けていきそうだ。
「や、だ…やめっ……や……。」
熱を上げていく自分が信じられなくて、うわ言のように同じ言葉を繰り返す事しか出来ない。
「嫌じゃないでしょ?もっと気持ち良くなって、俺にほんとの竜成さん見せてよ…。」
「……ぁ…。」
ずるりと指が引き抜かれると、代わりに熱をあてがわれる。
 じりじと腰を進めてくる彼を受け止める。貫かれ、揺さぶられ、朦朧とした意識の波を漂うように俺は縋るものを求めて彼にしがみついている事しか出来なかった。




 ぼんやりと目を開けるとそのまぶしさに影を探してもぞもぞと身動ぎをした。
「竜成さん?」
優しげで小さな、でもよく通る声で名前を呼ばれうーだか、あーだか返事にもなっていない音を発してから再びゆっくりと目を開ける。
 目の前に見えた、爽やかな笑顔に驚いて後ずさるように体を動かした…つもりだった。しかし、身体中が痛い。激しい運動をした翌日のように、全身筋肉痛だ。
 昨日の事を思い出し始めた俺の頭は混乱していて、何をしたらいいのか、何を言うべきなのか思いつかない。
 彼はベッドの脇の床に座りこみ、シーツに頬杖をつくようにして俺の顔をニコニコと見つめている。
「……塚原君、きみは、その……俺は……。」
目線を合わせないよう、しどろもどろに意味の無い言葉を発した途端に彼はベッドに乗り上げて布団ごと俺を抱きすくめた。
「っ、重いっ!!いたい!はなせ、こらっ!!!」
「あはは、ちゃんと俺の名前覚えててくれたんですね〜。」
何故に俺はこんな事になってるんだ。見知って間もない人間に、しかも男に抱かれてこんな所で朝を迎えて。遠慮も建前も無く、暴言を吐きながらこうして年下の男に抱き締められている。
「やっぱり竜成さんカワイイ。俺の目に狂いはなかった、って感じですね。」
いや、意味が分からん。
「もうさ、諦めちゃった方がいいですよ。俺とあんな事やこーんな事、しちゃった仲じゃないですか。」
昨日は酔った勢い、とか言ってなかったか?いや、酔っ払っていたのは俺だけだが。彼は一体、何者なんだ。やっぱり宇宙人か何かなのではないか。

 俺の沈黙をどう受け取ったのか分からないが、やっと彼は俺の上から体を起こし、横に転がった。
「言っておきますけど俺、いつもあんなに愛想よくバイトしてないですよ、竜成さん専用なんですから、あれは。普段はもっとてきとーにやってます。俺、そういうの使い分けるの、けっこう得意な方なんです。」
彼の言葉通りにとるならば、まさしくその、俺専用だかの愛想の良い笑顔を俺に向けた。
 彼の言動に翻弄される。猫の目のようにころころ変わる彼の態度や口調に、俺は確実についていけていない。戸惑うばかりだ。
「使い分ける……ってのは…。どうしたら、そんな……。」
中途半端な質問のような、思いついた言葉を口にしただけだったが、彼はそれをきちんと汲み取ってくれたらしい。
「あ、俺、劇団員なんですよ。で、公園のアレは今度の劇の練習です。嫌味なヤツの役やるんで。そんなに真に迫ってたなら、劇も成功するかもですね〜。」
仰向けに寝転ぶと、観に来て下さいね、と暢気な調子で言葉をつなげる。
「演じるのは俺の専売特許ですから、無駄な抵抗はやめましょうよ。」
悪びれた様子も無く、唖然としている俺の額に音を立ててキスをしてきた。
「俺の前でだけ本音でいてくれていいんですよ。魅力的じゃないですか?そういう関係って。」

 かくして俺は流されるままに彼のペースにはまっていってしまった。からかわれているんじゃないかと思う事も多々あるのだが。






 「竜成さん、いつになったら俺の事恋人って認めてくれるんですか?」
「断じて認めん!」
「冷たいな〜、俺とエッチしてる時は甘い声で『幹生』って呼んでくれるのに。」
「…っ!知るか、ボケッ!!」
「竜成さん、愛してますよ。」
耳元で甘く囁かれて、
「うるさいっっ!!!」
毎日繰り返している「大人の対応で彼をあしらう」という決意はあっけなく翻るのであった。




流され受ちょっとツンデレ風味、になるんでしょうかね、これ。そして強引な攻。基本、受けが溺愛されていれば、私は満足です(笑)。
(back ground:『snow white』様)


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