まるで猫のように 2




 二人で近くのイタリアンの店に行く。ここの店の人は学の素性を知っていて、一番奥の半個室のようになっている、 指定席ともいえるいつもの席に案内する。 水を出しにきたウエイターは俺だけにメニューを渡し、学には「いつものでよろしいですか?」 と声を掛け、軽く頷いた学を確認すると一礼して戻って行った。
 学は申し訳程度のスープパスタと鶏肉の乗ったドレッシング少なめのサラダにアイスコーヒー。 俺は具のがっつり乗ったシーフードピザと添え物のサラダにコーラ。

 こういう食事もいつものパターンだ。 モデルってのも大変だと俺は思う。 食事も気にしてるし、それなりの運動も欠かしていない学はやっぱりプロなんだと実感してしまう。
 大学での事や、バイト先での他愛も無い話を俺は思いついた順番にてきとうに話す。 それを相槌しながらたまに笑ったりして、大人しく聞いてくれるんだ。

 1時間程掛けてゆっくり食事を済ませて、マンションに戻ってきた。
「先に風呂入れ。仕事のメール、チェックするから。」
「ああ。んじゃ、お先。」
学の言葉に促されて浴室へと向かった。
(このタイミングで風呂、って事は…ヤるって事だよな……。)
シャワーを浴びながらふと思う。学とは一緒にいられる時間もあんまり無いから数える程しか 身体を重ねていない。 何となく流れで、って感じだったし、俺自身かなりそういう事には淡白だから、 成り行きというのか、学のする事にそのまま従った感じになってしまった。 初めて男とヤったけど、とりあえずあんまり痛くは無かった。 でもすげー良かったかと聞かれれば、正直よく分からない。 付き合った女とも関係は持ったけど、夢中になる程気持ち良かった事は無かった。 俺にとってセックスはそんなもんだ。 学はどう思ってるんだか知らねえけど…。

 意識してないつもりでも、どっかで気にしてるのか、いつもより心なし丁寧に身体を洗って風呂を出る。 髪をてきとうに乾かしてリビングへ戻ると、学が丁度部屋から出てきたとこなのか、 銜え煙草のまま冷蔵庫の中を物色していた。
「これでも飲んでろ。」
そう言って俺に缶ビールを渡す。自分はワイン以外のアルコールは口にしないのに、 俺の為にこうやってビールなんかも用意しといてくれる。
「ありがと。」
俺はありがたく受け取って、自分も煙草を吸おうと手を伸ばすと、学は自分の吸いかけの煙草を 俺の口元へ差し出してきた。
「俺も風呂行くから、これ吸っといて。」
「あ、ああ…。」
学の指先から煙草をそのまま口で受け取ると、いい子で待ってろ、と俺の髪をクシャッと一撫でして 浴室へと入って行った。

 子供扱いすんじゃねえとか思いながらも、ぼーっとTVを見ながらビールをあおっていると、 しばらくして髪をがしがしと拭きながら学が出てきた。 上半身裸のまんま出てきたのを目に留めて、相変わらずいいカラダしてやがるとちょっと悔しくなる。
むすっとしたまま呟く。
「…何か着ろよ、風邪ひくぞ。」
「別にいいだろ。どうせ脱ぐんだ。」
平然と言い放って俺の隣に腰を下ろした。
「さっきの『とうま』みたいに喘がせてやろうか?」
にやにやしながら俺の顔の方に手を伸ばしてくる。
「馬鹿かっ、てめーはっ!俺はあんな声出ねえって言っただろうがっ!!」
すっかり忘れてたのかと思いきや、しっかり覚えてやがる。 学の手を払いのけてビールに手を伸ばす。
「お前なぁ、いつも手加減してやってんだぞ、ありがたく思え。」
学の言葉がズキンっと胸に響いた。手加減って事は…
「……………俺とじゃ満足いくセックスは出来ねえ…ってこと…?」
自分ではそんなつもりじゃないのに少し声が震えてる気がする。 別に大した事じゃないはずなのに。
セックスなんて、別に…。

 「そうじゃねえよ。」
ため息とともに言われる。
「俺じゃ本気になれないなら、他のやつ、抱いたって…いいんだぜ……。」
心にも無い言葉が口をつく。ほんとはいやだ。 こいつが他の人間とヤるなんて。
いきなり腕を掴まれてビビった。 顔を上げるとあからさまに不機嫌で、今まで見た事の無い顔をした学がいた。
「ちょっ……うわっ!」
学は無言のまま俺を寝室へ引っ張ってきて、ベッドへ放り出した。 俺に覆いかぶさって少し怒気を含んだ声音で告げられた。

 「んなこと言うなら、本気、見せてやるよ。」
「…んっ………。」
急に貪られるようなキスをされて息が出来ない。こんな風にされた事ねぇ…。 キスだけで身体の力が抜ける。 Tシャツの中に手を差し込まれ、胸を撫で回される。 乳首を摘まれて思わず身体が跳ねた。
「これからはここも触って欲しくてたまんねえ、ってなるまで開発してやるから。」
耳元でいつもより更に低い、腰に響くような声で囁かれて、そのまま耳朶に軽く歯を立てられ、 耳の中に舌を這わされる。
「…うる…せぇ……はっ………。」
「耳は元々弱いもんな、お前。」
俺は歯を食いしばってなるべく声が漏れないようにする。 自分の口元に腕を押し当て、顔を背ける。
いつもと違う、少し熱を孕んだような声と熱い手の愛撫が俺を翻弄する。 でも声出してよがるのなんか恥ずかしい上に格好悪いじゃねぇか。
「よそ見してていいのか?」
「なっ…ぁ…やめっ………んんっ……。」
学がいきなり下着とスウェットをずり下げ、俺のモノを口に含んだ。 フェラなんて今までしてこなかったのに。 しかも俺の経験してきたのなんか比較にならない程ぶっちゃけ、上手い。 やべー、フェラってこんな気持ちいいのか。
舌を這わされ、根元まで咥えられてそのまま吸われて思わずイきそうになる。
「……うっ…学、放せ…よ………出るっ…。」
「いいからイけよ。飲んでやるから。」
「ばかっ…やだ…ぁ……はっ………くっ……。」

 俺は学の口の中で放ってしまった。 自分でも恥ずかしい位、息が上がってしまっていて、はあはあと一所懸命に口で息をする。 学は俺のを飲み下して、やらしく唇を嘗めて俺を見つめていた。 心臓がバクバクと音を立てる。
学ってこんな色っぽかったのか。
「もっと気持ちヨくしてやる…。」
そう言うと中途半端に脱がしていたものを全部取り払って、俺の腰の下に枕を入れた。 自然と腰が浮いて、全部見られるような体勢にされて、思わず逃げようとしたが学に腿を がっちり掴まれてそれは叶わなかった。
「逃げんなって。今日はちゃんとこっちでも思いっきり感じさせてやるから。」
俺の股間に顔を近づけながらそんな事を言った学は、俺の後ろに舌を這わせてきた。 ぴちゃぴちゃとやらしい水音が聞こえて、あまりの恥ずかしさに顔がカーッと赤くなるのを自分でも感じた。
「やめっ……なにす…んだっ……ぁ…はぁっ………。」
「かわいい声、出るじゃねえか。あんなまがい物の声より、ホンモノの透真の方がよっぽどやらしい声してる。 力抜いてろよ…。」
学の指が俺の中に入ってくる。まるで自分のものじゃないような上擦った声が漏れる。 恥ずかしくて何も考えられない…。
「透真のイイトコはここだろ?」
「ひっっ………ぁああっ……ンっ…。」
中の一箇所を押し上げられて自分でも驚く程大きな声が出て、思わず自分で自分の口を手で覆った。

 何だ、これ。俺、どうしちまったんだよ。

 そのまま指を増やされて、執拗にそこを責められる。 自分の身体なのに全然思い通りにならない感覚に支配されながらも、声が漏れないように 必死で口を押さえていた。
「声、我慢するな。気持ちいいんだろ、もっと声聞かせろ…。」
口を塞いでいた手をそっとはずされる。いつの間にか俺の方に身体を起こしていた学が真っ直ぐに俺を見つめていた。 汗で張り付いた前髪を優しく掻きあげられ、キスされる。 強烈な波に攫われるような、自分が自分で無くなってしまうような。そんな恐怖を感じて、 俺は縋り付くように学の背中に腕を回して、肩口に顔を埋めた。
「…がく…俺、おかしい……変…だ…こんなっ………おれじゃ…ねぇ……よ…。」
息が上がっているせいで、途切れ途切れに言葉を何とか紡ぐ。 自分でも何を言ってんだか、いまいち訳が分からない。
「変じゃなくて感じてるっていうんだ。そういう風にしてんの、俺だし。 ってかな、そんな可愛いことされると、さすがの俺も我慢出来ねぇんだけど。 ……挿れてもいいか…。」
学も俺を抱き締め返してくれて、俺の耳元に興奮を滲ませた声で囁いてきた。 俺は学の肩に顔を埋めたまま小さく頷いた。
「透真も素直に感じろよ。俺も今日は正気保つ自信ねえ…。 初めてだ、こんな余裕ねえの……。」
「…はっ………んぁっ…ああっっ………。」
腰を掴まれ、ゆっくりと挿入される。学の『初めて』という言葉が俺のなけなしの理性を 吹き飛ばした。
「…ぅ…あぁ…ンっ……がくっ…はぁ…気持ち…いいっ…ぁ……。」
「透真…俺も、すげー…イイっ……お前ンなか…たまんねぇ…。」





 それからははっきりとした記憶が無い。とにかく激しくされて、好きだ、愛してるって囁かれて 俺も喘ぎまくってた気がするし、途中から訳分からなくて泣いてたような…。 セックスって、ほんとはこんななのか…。