恋心 3





 沈黙に耐えられず、口を開いた。
「気に入らなかった・・・か?」
「そうじゃないんです。あの、俺のも開けて見てください。」
嬉しそうにそう返してきた彼の言葉に従って、彼からのプレゼントの封を開けてみた。それを目にして俺も彼と同じように固まってしまった。
「同じもの選んでたなんて、心が通じ合ってるみたいですごく嬉しいです。」
そう、彼が俺にくれたのはツウィード調の柄の入っているチャコールグレーのマフラーだったのだ。彼はいまだ固まっていた俺を抱き寄せ、キスをしてきた。軽く唇を合わせるようなキス。いつもならここで俺がやめろと言って終わるのだが、何も言わない俺に不審げな顔をして彼が今にも唇が触れそうな距離でそっと囁いてきた。
「抵抗しないと、俺このまま恭司さん抱いちゃいますよ。」

 もう既に俺の心は決まっていた。今日ではなく、もっと以前から。こいつを可愛いと思ってしまったのがそもそもの発端だ。
 出会ってすぐに俺を好きだといい、抱き締めたり、キスしてきたり、そんな強引さと大胆さがありながら、あれこれ気遣ってくれたり、俺の話に真剣に耳を傾けてくれたり、そんな健気で純粋な年下の男。
 ここまで真っ直ぐに好きだという感情を与えられて嫌な気になる人間などいないだろう。いつからか手放したくないとそう思っていたのだ。この心地良い関係を。俺はとっくに彼の手中に落ちていたんだ。

 俺は自分からキスを仕掛けた。深く求めるような。最初彼はそれに戸惑ったようだが、すぐに彼から熱い口付けが返ってきた。それに合わせるように薄く口を開くと舌が潜り込んできた。



 お互い裸のままベッドの上で抱き合う。さっきの続きとでもいうように、貪るようなディープキスをしながら、彼の手が俺の肌の上を這い回る。キス自体久し振りな俺はすっかり彼のペースにはまっていた。
「恭司さん、ほんとにいいんですか?」
今更この状況でそんな事を訊いてくる。何だかおかしくなって、俺はくすりと笑って、こう答えてやった。
「君のしつこさに根負けしたよ。いつの間にか君が可愛くてしょうがなくなった。まるで尻尾を振ってる犬みたいでな。」
彼はそれを聞くと、むすっとした顔で俺はペットじゃないですよ、と告げてきた。またそれが可愛い。
「俺は恭司さんを守りたいと思った。いつも一所懸命で真面目な人だから、俺がいる事で少しでも助けられたらいいって、癒せるようになれればって。年下の俺が言っても生意気だと思うかもしれませんけど・・・。」
至極真剣にそう伝えてきた。

 愛されているというのはこんなに幸せな気持ちになれるのだと初めて知った。俺は目の前の彼の頭を抱え込むように抱き締めた。
「ありがとう。君を好きになって良かった・・・。」
正直に自分の気持ちを口にした。

 しかし、彼から返ってきたのはこんな台詞だった。
「男同士でどうやってやるか、知ってます?」
言われてみて不安になった。知識としては知っているが・・・。思いを巡らせていると彼の手が俺の後ろへ回って、そっと撫でてきた。
「ここ・・・使うんです。」
耳元で熱っぽく囁かれて俺の身体はびくっと跳ねた。
「抵抗があるなら、恭司さんが俺を抱いてくれてもいいですけど。」
「俺は俺よりも図体のいい男を抱く気は無い。」
これは本心だ。でも正直、抱かれるというのも少し、いやかなり怖いものがある。そんな俺の迷いをちゃんと感じ取ったのか、キスをして彼は言った。
「それ以外でもちゃんと気持ち良くなる方法、ありますから。俺に任せて下さい。」

 彼の唇がどんどんと下へ滑っていく。片方の手は俺の緩く勃ち上がったモノを軽く扱いている。他人から与えられる久し振りの愛撫の感触に身体が疼く。
「・・・ぅっ・・・・・。」
思わず声が漏れた。彼の唇が俺のモノに触れたからだ。そのままフェラが続けられる。俺の先走りと彼の唾液で濡れた音が聞こえてくる。
「今日はここで気持ち良くなれるって事さえ知ってもらえば。これから時間はたっぷりありますから。」
口元に笑みを浮かべ、そんな事を言いながら、彼は再度俺の後ろに手を伸ばしてきた。俺のモノを扱いていた手は濡れていたからか、それ程抵抗は無かった。ちりっと小さな痛みが走り、思わず身体が強張る。
「力抜いて、恭司さん。大丈夫、指しか入れませんから、こっちに集中して・・・。」
そう言って再び俺のモノに舌を這わせてきた。何が大丈夫なんだか、と思いながらも彼の口に包まれてビクビクと震える俺のモノは萎える気配は無かった。指が内を探るようにゆっくりと蠢く。その指が一箇所を掠った途端、今までに経験した事の無い感覚に身体が震えた。
「な・・にっ・・・・はっ・・ぁ・・・・・。」
そこを集中的に擦られ、抑えようとしても喘ぐような声が止められない。枕に顔を埋めるようにして、必死に声を殺す。
「前立腺っていうんです、男でも感じる所・・・。」
一端口を離し、そう囁かれて息がそこに掛かる感触にも感じてしまう。いきそうになる。
「いや・・だっ・・・・・やめ・・・くっ・・・ん・・・・。」
「いいですよ、イって・・・。」
まさかこんな所を弄られて気持ちよくなるなんて、と思いながらも込み上げてくる射精感は抑え切れなかった。銜えられたまま、放ってしまった。
「ふ・・・・っ・・。」
全てを搾り取るように彼は吸い上げてきて、初めて味わう快感にぐったりと身体が弛緩する。
「恭司さん、可愛い・・・。」
そう言われたと思ったら、ぎゅっと抱き締められた。力の入らない俺は抗えない。


 「今度は俺と一緒に気持ち良くなりましょうね・・・。」
そう呟かれて、俺はうつぶせにされた。腰を持ち上げられ、四つん這いの体勢にさせられる。
「なに・・する気・・・だっ・・・。」
「こうやって、脚閉じてて下さいね。」
彼の勃ち上がったものが俺の股間に触れて、そのまま太腿を合わせられた。彼は両手で俺の太腿を外側から押さえ込んだ。
「ほら、こうすれば気持ちいいでしょ・・・。」
そのまま彼は腰を前後に揺らし始めた。彼の固いモノで裏筋が刺激され、さっき放ったばかりなのにまた反応してしまう。
「・・あっ・・・・。」
「恭司さん、気持ちいい?俺も・・・すごく気持ちいいよ・・・。」

 動きが早くなり、それにつれて快感も増していく。自分のモノがビクビクと震え、2度目の絶頂が迫っているのが自分で分かる。彼も限界が近いのか、荒い息づかいが聞こえてくる。急に背中に重みを感じたと思ったら、耳元で囁かれた。
「・・ねぇ、恭司さん・・・俺の事、名前で呼んで・・・。『あきら』って・・・呼んで・・・。」
囁かれ、耳元に感じる息も、普段よりも低く、掠れた声も快感に変わっていく。
「・・・あき・・らっ・・・・・・うっ・・ぁ・・・・・・あきら・・・。」
「恭司さんっ・・・一緒に・・イこう・・・俺、もう限界ですっ・・・・・・。」
彼の律動に合わせて身体が傾ぐ程激しく擦られて、俺も彼もほぼ同時に精を放っていた。




 それからも彼との日常はさほど変化は無かった。翔と一緒に出掛けたり、彼がうちを訪ねて来て、夕飯を一緒に取ったり。俺が二人きりの時に、彼を晶と呼ぶようになった位の些細な変化だ。翔が年長に上がる時に彼はとても寂しがった。担任では無くなるからだ。
 俺も多少の不安があった。この関係が変わってしまわないかと。しかし、それを繋ぎとめたのは他でも無い、翔だった。

 「ねえ、あきらせんせい、ぼくがねんちょうさんになってもあそんでくれるでしょ?」

 こう言われた時、俺達は思わず二人で顔を見合わせてしまった。その後、彼はいつものように笑顔で言った。
「勿論!今度はサクラ見に行こうね〜。」
俺も彼と一緒に微笑んだ。