恋心 4





 季節は移り変わり、彼との関係が恋人同士に変わった冬が来た。クリスマスの日、去年と同じように3人での食事。ただ今回は彼のおすすめだというレストランでのディナーとなった。
 ちょっと洒落た、でも家庭的な雰囲気のある所だった。翔もいままで見た事の無いような料理に興味津々で目を輝かせている。まるで家族で過ごしているような温かな雰囲気に包まれていた。

 少し畏まった所に来た緊張感と満腹で翔は帰りの車の中で寝付いてしまい、彼との二人の時間が訪れる。
「今日、これから大丈夫ですか?もし平気なら・・・うちに来ませんか?」
「翔がいるから・・・。」
そう断りを入れようと口にしたら、彼はそれを遮るように言葉を重ねた。
「ちゃんと送ってからならいいでしょう?二人っきりでクリスマスパーティー、やり直しませんか?それに俺、恭司さんと飲んでみたいな〜なんて。」
確かに彼は出掛ける時、うちに来る時、必ず運転をしているので、二人で酒を交わす事は今まで無かった。俺も翔がいるので、最近はほとんどアルコールを口にしていなかった。

 「朝にはちゃんと送りますよ。」
ダメ押しとでもいうようにちょっと眉尻を下げて懇願するような顔。彼のこういう顔は卑怯だといつも思う。しょうがないと絆されてしまうのだ。
「仕方が無いな。早朝の送り付きという条件なら許可しよう。頼んだぞ、運転手。」
偉そうな言葉で返してみるが、実のところ、自分も嬉しい。きっとそんな俺の気持ちなど見透かされているのだろう、彼はとっておきの甘い微笑を浮かべて勿論です、と答えた。


 二人でシャンパンを楽しむ贅沢な時間。夕食は食べたので、デザートのイチゴだけを肴に。早めの夕食だったから、翔を家に寝かしつけてきたのにも関わらずまだ10時を少し過ぎた位だった。




 「う・・・っ・・・・・ふ・・・。」
キスの合間に吐息が漏れる。お互いに服を脱がせ合い、ベッドへと沈む。肌の感触を確かめ、熱を伝え合う。俺は体勢を入れ替え、彼の上に馬乗りになるような形になった。
「今日は俺がしてやる・・・。」
そう耳元へ告げて、そのまま下肢へと唇を滑らしていく。今日が初めてだ、こんな事をするのは・・・。彼は戸惑ったように声を発する。
「あ・・の、恭司さん、無理しなくても・・・。」

 その言葉を無視して彼のモノに舌を這わせた。息をつめた呻き声が聞こえてくる。舐め上げ、先端を口に含む。
「・・・俺もしたいから・・こうして?」
促されて彼の顔を跨ぐような体勢を取らされた。彼は下から既に勃ち上がっている俺のモノを愛撫してきた。後ろにもローションを垂らされ、解される。
「こっちでもだいぶ感じられるようになりましたね・・・。」
決してからかうような声音ではない、うっとりとした口調でそんな事を呟く。指が出し入れされる度に卑猥な水音がたつ。内のいい所を責められて、銜えていられなくなる。
「・・・あっ・・・・ン・・ぅ・・・・・ふ・・ぁっ・・・・」
自分の身体を支えていた腕の力も抜け、彼の股間に顔を埋めるようにして喘いでしまう。
「・・もう我慢・・・出来ませんか?こっちに・・欲しい?」

 より俺の入り口を広げるかのように掻き回す彼の指に翻弄され、はしたなく求めてしまう。
「ぅ・・んっ・・・欲し・・い・・・・・・あき・・ら・・・。」
なんとかそう口にしながら、がくがくと頷く。彼は俺の下から身体を抜いて、後ろから抱え上げ、抱き締めてきた。
「・・・このまま挿れてもいい・・・?」
吐息と共に囁かれた言葉を首筋に受け止め、熱を孕んだ身体は更なる快感を求めて疼きだす。

 軽く頷いて返すと、腰を持ち上げられ、彼のモノに座り込まされる形で受け入れる。
「はっ・・んん・・・ああぁっ・・・・・。」
彼がベッドのスプリングを利用して下から突き上げてくる。うなじや耳の後ろに熱い舌が這わされる。彼も余裕が無いのか、抽送はすぐに早くなっていった。俺は揺さぶられるままに意味を成さない言葉を発する。
「・・すごい、熱い・・・恭司さんのナカ・・・・・・俺、もうイキそう・・。」
俺は彼の口付けを求めて、無理な体勢で首を捻り、後ろを向く。まるで噛み付くかのように乱暴に唇を塞がれた。
「・・・ふっ・ん・・・・ぅ・・・・」
アルコールが入っているせいか、いつもより身体は熱く疼き、溶けるような深い快感を呼ぶ。キスに反応した俺の身体は彼のモノを締め付けた。彼は詰めた息遣いと共に手を前に回し、共に絶頂へと導くために強く扱き上げてくる。
「あぁ・・・・もっ・・う・・・・・んぁあ・・・」
前も後ろも同時に愛撫され、俺は放ってしまった。イった事でより彼のモノをきつく絞り上げる。その締め付けに彼は小さく呻いて、俺の中で果てた。
「愛してます・・恭司さん・・・・・・。」




 冬の朝は遅いとはいえ、まだ明ける気配の無い時刻に送ってもらった。やはり翔の事が気になっていて、ぐっすりとは寝付けずにいた俺にちゃんと気付いていたらしい彼は、早々に俺を送ってくれたのだ。
 マンションの前に停めた車の中で彼からのキスと甘い言葉を貰い、なるべく音を立てないようにそっと家へと戻った。翔の様子を見ておこうと部屋へと入り、ベッドの側へと歩み寄る。

 そして気付いた。いつもより荒い呼吸。慌てて近寄り、額に手をやるとそこはかなりの熱を持っていた。途端に頭が真っ白になる。俺は急いで掛かりつけの病院へ電話を入れ、翔を連れて行った。


 「大丈夫ですよ、きっと昨日のクリスマスではしゃぎ過ぎてしまったんじゃないですか?この後、お帰り頂いても平気ですよ。」
 年配の看護師にそう告げられ、俺は頭を下げた。翔はベッドの上で静かな寝息を立てていた。熱も既に下がり、いつも通りの穏やかな寝顔だった。幸い翔は身体も丈夫で、これまでこれといって大きな病気もしていない。こんな高熱が出たのも初めての事だ。動転していた俺を病院の先生も看護師も宥めてくれた。
 小さい子供にはよく出る症状で、病気でも何でも無いと。

 俺は罪悪感を抱えざるを得なかった。俺が家を空けたタイミングでこんな事が起こるなんて思いもよらなかった。それが俺を臆病にした。彼と付き合っているという事実に目を背けたくなってしまった。誰にも言えない関係。翔だって知らない。そう、俺は卑怯だ。



 口火を切ったのは俺の方。
 顔は見なかった、いや見られなかった。電話で伝えるのはどうしても彼に申し訳なくて出来なくて、それでもどんな顔をして彼がこの言葉を聞くのかと思うと、とても真正面から見つめる事など出来なかった。理由は聞かないでくれ、別れて欲しいと、自分勝手な事を言ったと思う。
 しかし、彼は一区切りの沈黙の後、ぽつりと一言、分かりましたと。今までに聞いた事の無い、彼の声。ああ、彼はこんな声も持っていたんだと思った。俺の前ではいつもにこにこと嬉しそうに、楽しそうに、そして幸せそうにしていた彼が。俺は背中で彼の言葉を受け取った。
「俺は恭司さんの事、ずっと好きですから。」