白椿の君の秘め事 2





 お風呂を頂いて、浴衣を身につけて美果様の扉の前に立つ。緊張で鼓動が早くなっている。昼間の美果様の言葉、声音、瞳、その全てが鮮明に蘇り、俺を落ち着かなくさせるのだ。震える手を握りしめ、扉を軽く叩いた。
「お入りなさい。」
扉越しに美果様の声が聞こえて、覚悟を決めるように大きく息をつき、失礼しますと告げて扉を開けた。

 「ああ、良く似合っていますよ。もっとよく見せて。こちらへいらっしゃい。」
顔を綻ばせて喜んでくれる美果様の姿にほっと肩を撫で下ろす。言いつけ通りに歩み寄っていくと、美果様も立ち上がって俺の前へと進み出た。俺の姿を頭の天辺から爪先まで見つめると、俺の頬へと手を伸ばしてきた。そっと包まれる感触に少し見上げるようにして、美果様と視線を交わす。
 瞬間、それまで柔らかい光を持っていた瞳は鋭いものになる。それだけで俺の心臓は跳ね上がった。
「……やはり何か私に隠している事があるのでしょう?」
親指の腹で唇をなぞられ、その淫靡な手付きに背筋にぞくりと何かが走る。断定するように指摘されたが、もう視線を逸らす事は出来なかった。
「いけない子だ。……お仕置きしなければなりませんね。」




 「………ぁ…。」
寝台の上に四つん這いにさせられ、浴衣の上から尻を撫で上げられて思わず声が漏れる。その声は自分でも分かるほど不安と期待がない交ぜになったような淫らな響きがあった。背中に忍び笑いが聞こえる。
 浴衣を捲り上げられて、下穿きも膝まで下ろされる。剥き出しにされた尻に冷たい指が触れ、身震いした途端、ぱんっと乾いた音と共に鋭い痛みが走った。
「動いてはいけませんよ。」
冷たい声でそう告げられる。しかし、下肢だけを晒して尻を叩かれたのだと認識した事で、羞恥が一気に押し寄せてきて、身体が震えてしまう。そのまま立て続けに二度、三度と容赦の無い手が振り下ろされた。
「やっ……あ…ぁん……ああっ………。」



 俺はどの位その責苦を味わっているのか分からなくなっていた。痛みの為なのか、よく分からないままに涙を零していた。力を失った腕では上体を支えておく事もかなわずに、顔と肩を敷布につけ、尻だけを突き出すように上げる、より淫らな体勢になってしまう。
「…っ…あっ……みか、さまぁ……ぁっ……。」
散々叩かれて熱を持った尻をゆっくりと掌で撫でられて、自分のものとは思えない程、甘くいやらしい声が漏れた。いきなり髪を鷲掴みにされ、無理やり後ろを向かされた。
「これではお仕置きになりませんね………感じてしまったのでしょう?」
見下ろしてくる視線は、氷のように冷たくもありながら、炎のように熱い。
「あぁ………ゆるし、てくだ…ぃ……ごめ…なさいっ……。」
俺は必死に美果様に許しを請うていた。自分でも信じられない事に俺の身体は美果様に叩かれて反応していたのだ。尻を叩かれていた痛みは痺れるような疼きを生み、身体中にその熱を広げていた。
「ほら、こんなにして…。興奮したの?」
「…ひっっ………。」
勃起していた性器を強く握り込まれて、引き攣った声が漏れた。ただ、その刺激にも俺の身体は悦んで先端から雫を溢れさせ、美果様の手を汚す。
「……いやらしい子だ。」
そう呟いた美果様は、俺に掠めるような口付けを寄越した。俺はそれを追うように舌を出し、もっとと強請る。その仕草に満足そうな笑みを浮かべた美果様は俺の舌先を唇で食むと、舌だけ絡めてくる。余りにも淫らな口付けに俺の身体は更に疼き出す。

 すっと身体をひかれ、俺は口付けから解放された。美果様は目を細め、眇めるように俺を見下ろしている。
「もっと苛めてあげましょうね。」
口端を少し吊り上げて笑みを浮かべた美果様の姿に心臓が大きく波打った。再び尻に手を這わされたかと思うと、今度は秘所が露になるように押し広げられた。
「期待していたのですか?ここも苛めて欲しいと。」
揶揄する口調に羞恥を煽られ、ひくりとそこが収縮するのが自分でも分かった。突き刺さるような視線を感じて、俺は堪らなくなっていく。
「…ぁ……いじめ、て……くだ…さい……。」
本能のままに頭に浮かんだ言葉を口にする。もうとっくに思考など働いていないに等しい。あるのはただ快楽と、それを与える美果様の存在だけ。
 後ろへとひねるように右腕をとられ、身体が傾いだ。ぼんやりと美果様の方へ顔を向ける。俺と視線を合わせたままで、美果様は俺の中指に舌を這わせ、口に含んだ。たっぷりと濡らされてから引き抜かれた俺の指と美果様の唇の間には銀の糸が伸びた。
「自分で弄ってご覧。こうやって…。」
刺激を求めてひくつく秘所へと唾液で濡らされた指が押し付けられる。俺の手首を掴んでいた美果様の手に力が込められ、俺の意思に関わりなく指が食い込んでくる。
「んぁっ…ぁ、ああ……。」
引き攣るような痛みを感じたけれど、自分の指を飲み込んでいく淫らな行為を見られているという事に俺の身体は悦んでいた。美果様は俺の指を使ってそこを犯していく。
「蒼太の中は熱いでしょう?」

 「…はぅ……ふっ…ぁ……あんっ……。」
いつの間にか美果様の手から解放され、俺は自ら指を抜き差ししていた。段々とそこから卑猥な水音が立つ。
「もっと欲しがっていますよ。もう一本増やしてあげなさい。」
言いつけ通りに震える人差し指を添えて、尻へと埋めていく。増した圧迫感に高い嬌声を上げてしまう。俺の内は悦んで絡み付いてくる。気持ち良い、だけれど美果様から与えられる程の壮絶な絶頂感はいつまで経っても訪れてはくれない。俺は夢中で肉襞を掻き回すように指を激しく動かしていた。
「ああぁっ…美果さ………やぁ…。」
耐え難い疼きを生み出すだけでどうにもならないもどかしさにまた涙が溢れ出す。
「どうしたのですか?こんなに美味しそうに自分の指を銜え込んでいるのに…。」
顔を必死に背後へ向けると、愉しそうに俺の様子を眺めている美果様の姿が目に映る。ぼやけた視界で捉えたその姿に訴えていた。
「もぉ無理で、すっ……このままじゃ…ぁ…俺、おれっ……ぁあん…おかしく、なっちゃい…ますっっ…。」